モノを超えて、価値を生む──アーバンリサーチ・竹村圭祐 × FC今治・岡田武史、今治をますますおもしろくする妄想談義
毎年秋の恒例になりつつある「TINY GARDEN FESTIVAL」。アシックス里山スタジアムを舞台に、アーバンリサーチとFC今治がいっしょに開く、ちょっと特別なキャンプイベントです。3年目となる今年は10月25日・26日に開催します。
でも、ふと気になるのはサッカーとファッション、いったい何がつながるんだろう?そんな疑問を抱く人もいるかもしれません。
アーバンリサーチ・竹村圭祐社長とFC今治・岡田武史が話すのは、モノづくりの先にある「価値」や「体験」。ユニフォームのリメイクから始まった2人の出会いは単なるパートナーシップを超えて、スタジアムをみんなで楽しめる「体験の場」へと、どんどん広げています。宿泊施設にセレクトショップ────なにやら妄想はますます加速中。
2人の会話を、覗いてみました。


岡田武史(おかだ たけし)
大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、古河電気工業株式会社に入社。1997年FIFAワールドカップフランス大会の本戦初出場を果たし、Jリーグ コンサドーレ札幌監督、横浜F・マリノス監督を歴任し、2010年FIFAワールドカップ南アフリカ大会では、チームをベスト16に導く。海外では、中国スーパーリーグ杭州緑城でも指揮し、現在は愛媛県今治市を拠点として、FC今治の運営会社、株式会社今治.夢スポーツの代表取締役会長に就任。「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」を企業理念として、地方創生にも取り組んでいる。

竹村圭祐(たけむら けいすけ)
1974年、アーバンリサーチ創業の直前に生まれる。98年入社後、アーバンリサーチ1号店で販売スタッフの後、京都店、堀江店店長。傍らECサイトの立ち上げ運営に携わる。東京初出店の際、店長として赴任。2004年より総務部長。人事総務部門、EC・情報システム等のデジタル部門を担当。その後、事業支援本部長、専務、副社長を歴任し、2023年4月1日付で代表取締役社長就任。好奇心旺盛で、常に時代の先端を見据え、仕事に取り込めるかを模索している。趣味は、小型機パイロット、山登り、食べること。好きな食べ物はおにぎり。
出会いは「ユニフォームの再生」から
岡田:出会いのきっかけは、共通の知人を通じてだったんだよね。僕ら、ユニフォームや移動着をシーズンごとに新しくするから、古いものは全部廃棄するしかなかった。スポンサーのロゴ入りだし、人に譲るわけにもいかない。でも「もったいないな」とずっと思ってた。袖だけでも使えないかとか、リメイクの可能性を探していたときに、ガンバ大阪の大ファンの知人が「アーバンリサーチさんなら何かできるかもしれない」と紹介してくれた。
それで僕が「一度会って話してみたい」とお願いしたのが最初。まあ、いつも通りホラ吹いたら、コロッと騙されてくれて(笑)。

竹村:(笑)僕らも「リサイクル」や「サステナブルなものづくり」に以前から取り組んでいて、「もしかしたら一緒に何かできるかもしれない」と思ったんです。それが最初の出会いでしたね。
正直、熱心なJリーグファンというほどでもなくて(笑)、FC今治のことも詳しくは知らなかった。でも岡田さんの話を聞いて、「これは単なるサッカークラブじゃない」と感じました。地域の未来や次世代の育成に真正面から取り組んでいる。その姿勢に強く共感したんです。
岡田:ありがたいことに、竹村さんは最初から「服を売るためのパートナー」じゃなく、「理念を共にできる仲間」として見てくれた。パートナーになってくれると聞いたときは、「広告宣伝では返せないなあ」と思ったけど(笑)。
でも話していくうちに、「モノではなく価値を届ける」という考え方にお互い深く共感できたんだよね。数字で測れない“幸せ”や“温かさ”を届ける。それを本気で考えておられるのだなと。
竹村:うちの社是は「すごいをシェアする」。岡田さん自身がまさにそれを体現してきた方。だから自然に、「もっと深く知りたい」「一緒に挑戦してみたい」と思えたんです。

ファッションとサッカー。違うようで、根っこは同じ。
竹村:ファッションも、突き詰めると「モノの形」や「素材」だけでは続かない感覚があって。もともとのファッションの起源をたどると、社会への欲求や不満から生まれた表現の一形態でもあったはず。だからこそ、狭い世界だけの話に閉じるのではなくて、社会や人の暮らしとどう関わるか。そこに目を向けることでこそ、新しい価値が生まれると思っています。
これからの時代を考えると、地域らしさや観光といった文脈と、洋服の接点を探ること。地域での活動で、そうやって新しい「すごい」を生むきっかけになったらという思いはありました。
そんな思いから、僕らは数年前から長野県でキャンプ場の運営を始めました。地域と関わる仕事の中で痛感したのは、「地域で信頼を得ないと、何も始まらない」ということ。
岡田さんはその信頼を積み重ねてきた方だから、「この人となら本気で地域と向き合える」と感じたんです。

岡田:うれしいですね。でも本当に、信頼と関係性がなければどれだけいい理念でも続かない。経済的に考えれば、儲けを優先したら難しいこともある。
蓼科でやられている「タイニーガーデンフェスティバル」もそうですよね。たぶんめちゃくちゃ儲かるわけでもない。でも来場者が音楽をしたり、店を出したり、いろんな人が関わることでコミュニティが生まれる。
そのうち、遠回しにアーバンリサーチのファンになってくれるかもしれない。それって、僕らがやっていることとよく似てるんですよ。根っこの部分に共通点がある。
僕らもサッカーを通じて、地域や教育、自然と関わっていくことを大事にしている。アーバンリサーチさんの取り組みも、ファッションを通じて「人が幸せになる体験」を生み出している。
今回、スタジアムの里山ジャルダンを「TINY GARDEN by URBAN RESEARCH」としてネーミングライツをつけてもらって、心のやさしさとか、温かさを感じられる場所がまたひとつ増えた。
サッカーと服、まったく違う領域のようでいて、自然とつながっている感覚があるんですよ。

竹村:僕らも、ただスポンサーになるだけじゃなくて、地域の人たちと一緒に“場”をつくりたかったんです。ようやく最近、それが形になってきた感覚があります。
将来的には、「今治らしさ」に根ざした商品開発にも取り組みたいと思っていて。長野県のキャンプ場では、そこから派生するブランドを育ててきました。その土地での体験や風景が、そのままアウトプットにつながるようなものづくり。そんな“生きたプロダクト”を、今治でも形にできたらいいなと思っています。

「今治にアーバンリサーチの店を」ふたりの“次の妄想”
岡田:今、竹村さんが「今治でもブランドを」と言ってくれたけど、僕の中でも妄想がどんどん広がっていて。
バックスタンドのところに、移動式の宿泊施設をつくって、普段はコテージとして貸し出し、試合のときはVIPルームになるような。さらに、FC今治高校の生徒が一堂に集まれる大きな講堂を建てたいと思って。その周りにいくつか小さなサテライト教室をつくって、生徒たちが通ってくる。デジタルアートなんかも取り入れて、子どもらだけではない、いろんな人が訪れるきっかけを仕掛けていきたい。
そして、そのエリアのどこかにアーバンリサーチのセレクトショップも──まあ、これは僕の勝手な妄想ですけど(笑)──作ろうと思ってるんです。

竹村:僕らが目指すのは、“わざわざ行きたくなる店”。立地やアクセスの条件だけでなく、そこに行く価値がある場所をつくりたいんです。
だから今治では、ショップはもちろん、宿泊施設も展開したい。スタジアムはもちろん、街全体を舞台に、面白くなるような仕掛けができたら最高ですね。
しかも僕らだけでやるのではなく、FC今治や地域の人たちと一緒に取り組めば、お互いの世界が広がるし、お客さんにも新しい出会いや体験のきっかけを提供できると思います。
“モノづくり”の先にある、人と社会へのまなざし
岡田:こうやって竹村さんがFC今治の“コミュニティ”に興味を持ってくださってるのが一番うれしくって。コミュニティって、仲間内だけで固まると怪しい宗教団体みたいになるでしょ(笑)。だから地元の人と、そして高校生も交えながら、じっくり腰を据えてつくっていきたいんです。
竹村:僕らも素材や生産の面でのサステナブルは意識しています。でも、それって本当にサステナブルの本質なのかな? と考えることもあって。岡田さんの言うように、本当の意味でのサステナブルは、「地域が自立的に回ること」にあるんじゃないかと思います。
岡田:そうそう。結局、人間にとって大事なのは“衣・食・住”。お金や中央に頼らず、地域の中で衣・食・住を自立的に生み出していくことが大切なんです。 その中でも「衣」は欠かせない要素。
今治はタオルの街だから、素材の発想も広がる。タオル地で服をつくったら……ちょっと気持ち悪いかもしれないけど(笑)、アーバンリサーチさんとなら、きっと面白いことができる気がする。

竹村:サステナブルとかコミュニティって、押しつけがましくなると途端に遠ざかっちゃうと思うんです。だからこそ、ファッションの“面白さ”や“彩り”が果たせる役割があるのかなと感じています。
岡田さんと話していると、僕が「かっこいいお店」を考えているレベルを超えて、 “社会全体の構想”にまで思考が広がるんです。毎回ハッとさせられますね。
岡田:もうウイルスに感染してるからね(笑)。
俺は服のセンスが全然なくて。大阪のアーバンリサーチの店に行ったら、店長さんが全部選んでくれた。それを着て帰ったら社員に「岡田さん、最近おしゃれになりましたね」って言われて。「前はそんなにひどかったのか」と、ちょっとショックだったけど(笑)。
今治にお店ができたら、俺のファッションがもっとおしゃれになるかもしれないね。
竹村:(笑)僕の変化は、サッカーへの関心が高まったことですかね。
岡田:それは、俺がちょっと強引に変化させたのかもしれないけどな(笑)。

取材 / 小林友紀(企画百貨)