お知らせ
2025.03.31

正解なし、だから面白い。FC今治と高校生が挑む、地域課題解決のリアル

正解なし、だから面白い。FC今治と高校生が挑む、地域課題解決のリアル

2024年4月に開校したFC今治高校里山校(FCI)。予測不能な時代をたくましく生き抜く次世代リーダーの育成を掲げ、そのユニークな教育方針が注目を集めています。なかでも、企業と一緒に地域プロジェクトに取り組む「里山未来創造探究ゼミ」は、社会で求められる力を育てる教育モデルとして、大きな期待が寄せられています。

地域に根差して活動するFC今治は、今年度、2つのゼミでFCIと連携し、生徒と一緒に活動してきました。このゼミで特徴的なのは、FC今治が単に「学びの場」を提供するだけではなく、生徒たちの成長に本気で向き合ったという点です。しかし、その道のりはたやすいものではありませんでした。

今回の記事では、実際に授業を担当した今治.夢スポーツの飛田文子さん(里山サロンゼミ担当)にお話を聞いてみました。

FC今治が描く「共に助け合うコミュニティ」の未来を担う若者たちとの協働は、どのようなエラーと学びを生み出したのでしょうか?

いざ始めてみると…「思ったよりも大変」と頭を抱えた

「高校生の自由な発想に期待したい」という思いから、具体的なゴールはあえて設定せず、スタートを切ったという里山サロンゼミ。

まずは、里山サロンが地域でどのような役割を担い、何を目指しているのか、そして現状の課題などを生徒たちに説明。その後、生徒たちが自由に課題へアプローチすることを想定して、「さあ、何をしようか?」と問いかけました。

しかし予想に反して、生徒5人の意見はなかなかまとまらず、プロジェクトの方向性を決めるのに苦戦を強いられました。

実は、このゼミに参加した生徒たちは、カフェに興味がある子もいれば、自分の関心は少し離れたところにある子も。「これは…思ったよりも大変だ。時間がかかるぞ」と、飛田さんは頭を抱えました。

何とか「メニューの改善」「本棚の設置」「アンケートの実施」という3つの課題にフォーカスすることが決まってからも、生徒たちの提案はなかなか進まず、煮詰まってしまう場面もありました。

生徒たちは「ジビエメニューを展開したい」「グランドメニューをリニューアルしたらどうか」など、壮大なアイデアを出していましたが、それは里山サロンの世界観や設備の限界、スタッフ体制といった現実的な制約を考慮したものではありませんでした。

実際に調理にも関わりながらメニュー開発に取り組んだ生徒たち

腹を割って生徒に向き合ってみたら、チームが前に転がりだした

生徒たちの自由な発想を引き出すことに注力してきた飛田さんでしたが、次第に、生徒のやりたいことと企業側の課題感とのバランスが取れていないことに悩み始めます。

アイデアは斬新でも、どうしても「詰めの甘さ」が拭えない。そこで飛田さんは、改めて、企業の視点から伝えるべきことを厳しく伝え、生徒と真正面から向き合うことを決意しました。

「こっちはプロとして妥協する気はないから、半端なものを持ってきてもやれないよ」(飛田さん)

見え隠れしていた生徒たちの考えの甘さを指摘し、リアルな社会の厳しさを本気でぶつけたといいます。

同時に、「里山サロンのお客さまがそれを本当に望んでいるか? 本当に食べたいと思うか? 本当に行きたいと思うか?」と、生徒たちに欠けていた「お客さま視点」を伝え続けました。メッセージを繰り返し伝えたことで、少しずつ生徒たちのアウトプットにも変化が現れ始めたといいます。

期間限定メニューとして提供する小鉢の開発を生徒たちに委ねた時のこと。

原価率を考慮して、お客さまがお金を払う価値があると感じるレシピ開発を依頼したところ、生徒たちは試行錯誤の末、3品のレシピを考案しました。

そのうち1品は『コーンバター』で、美味しいけれどありきたりなメニュー。お客さま視点の重要性を改めて強調し、修正を依頼しながらも、最終的に生徒たちは栄養バランスや色どりなど、飛田さんも「お客さまが価値を感じられる」と納得できる小鉢3品を完成させ、実際に里山サロンで販売に至りました。

本棚を設置する企画では、「どうやったら里山サロンらしい本棚になるのか」を生徒たち目線で追求。単に本を並べるだけではなく、訪れる人々が交流を生み出す場所にしたい。そんな想いから生まれたのが、「交換」というアイデアです。

子どもたちが自分の大切な絵本を持ち寄り、交換することで、本を通じた交流が生まれ、笑顔が広がる。そんな心温まる光景が、里山サロンで生まれつつあります。

さらに、生徒たちは「里山サロンのお客さまがどのような気持ちで利用しているのかを、もっと知りたい」という考えから、アンケートを実施。アンケート結果の分析にも苦労しましたが、最終的にはその結果をもとに「雨の日でも楽しめる里山サロンの利用方法」をテーマに、自分たちで動画制作にも乗り出しています。

3月1日の「学びの祭典」では、市民に向けて活動報告をした生徒たち

企業と学校が「本気」で向き合うということ

もちろん、企業側がゴールやプロセスをすべて用意し、「こうすれば良いんだよ」と教えた方が、はるかに楽だったでしょう。しかし、それでは生徒たちは「やらされている」と感じてしまう。飛田さんは、子どもたちを先導するのではなく、伴走することの大変さ、そしてそれには時間と忍耐力が必要であることを改めて実感したといいます。

「ゴールの設定は、どこまでこちらがしてあげるべきなんだろう」

「生徒の発想を制限しないためには、現実的なことを言い過ぎない方がいい?でも言わなかったら、夢物語になってしまう」

そんな葛藤に向き合った半年間を経て、里山サロンにはこれまで接点のなかったお客さまへと、拡がりが生まれていると飛田さんは言います。

「生徒たちが一生懸命やっている姿を見て、応援したいと言ってくださるお客さまや、彼らの発信から初めて足を運んでくださったお客さまもいます。多様な人が訪れる里山サロンに、一歩近づいた気がしています」

取材 / 小林友紀(企画百貨)