開館直前!おもちゃ学芸員と歩く今治・しまなみ木のおもちゃ美術館へご案内
3月20日のグランドオープンを目前に控えた、今治・しまなみ木のおもちゃ美術館。
開館を前に、この場所の“顔”ともいえる市民ボランティア「おもちゃ学芸員」たちが、初めて館内を巡る内覧ツアーに参加しました。
まだ一般公開されていない館内に、一歩足を踏み入れる――。その瞬間、参加者の表情がふっとほどけます。
視界いっぱいに広がるのは、やわらかな木の色合い。そして、鼻をくすぐる瑞々しい木の香りでした。
これから子どもたちを迎えるこの場所を、おもちゃ学芸員たちはどんな思いで歩いたのか。今回の記事では、開館前のミュージアムを巡った内覧ツアーの様子と、参加者たちの声をお届けします。

五感で味わう、どこか懐かしい「安心感」
「大工だった祖父を思い出して。すごく安心する匂いだなって、思わず深呼吸しちゃいました」
そう語るのは、おもちゃ学芸員の山内文さん。元保育士の彼女は、友人の勧めをきっかけにこのボランティアに応募しました。現役保育士である母・紫さんと親子で養成講座を受け、この日を心待ちにしていたといいます。
時に驚きの声を上げ、時に足を止めてじっと見入る。初めて足を踏み入れた館内を、おもちゃ学芸員たちはまるで宝探しをするように進んでいきます。
そんななか、母・紫さんが足を止めたのは、本物の木を配した「ごっこファーム」のエリア。幹のあちこちに隠れた木の虫を探す仕掛けや、木でできたしいたけやみかんを収穫する遊びなど、自然の中での発見や体験を楽しめる空間です。

その様子を見つめながら、紫さんの目がふと潤みました。
「子どもって、こういう場所が大好きですよね。触って、隠れて……。ここで夢中になって遊ぶ子どもたちの姿が、一瞬で目に浮かんできて。なんだか、すごく感動してしまったんです。本当によく考えられているなって」
大人が少し目線を下げ、しゃがんでみると――。
そこには、子どもにしか見えないワクワクする景色が広がっていました。それは、デジタルな画面の中では決して味わえない、五感をフルに使った「体験」の宝庫です。
「子どもたちの言葉をたくさん聞けることが、何より楽しみですね。きっと、自由な発想からたくさんの発見やつぶやきが生まれると思うんです。おもちゃ学芸員として、そのそばにいて、ゆっくり耳を傾けられる。そんな時間が過ごせるんじゃないかなって、今からとても楽しみにしています」

世代を超えた「遊び」の連鎖が生まれる場所
ツアーの列はさらに進み、菊間瓦の屋根が軒を連ねるエリアへ。そこには、色とりどりの木製食材が並ぶ「おもちゃ横丁」が広がっていました。
木で精巧に作られた寿司ネタや、今治のソウルフード「焼豚玉子飯」、鯛めしにラーメン。子どもたちが店主になりきってお店屋さんごっこを楽しんだり、小さなシェフとなって料理を振る舞ったり。地元の豊かな食文化を反映した木製食材が並ぶ空間は、大人の私たちでさえ思わず手を伸ばしたくなる愛らしさです。



「まさに『おもちゃ美術館』という名前が、そのまま形になった場所だなって。話には聞いていましたが、実際に目にすると想像以上のワクワク感です。顔が笑ったままもう元に戻らない!」
そう目を輝かせるのは、おもちゃ学芸員の畑岡優子さん。普段は福祉の仕事に携わりながら、長年地域のボランティア活動に情熱を注いできた大ベテランです。
畑岡さんがおもちゃ学芸員の募集を知ったのは、約1年前のこと。「純粋に子どもが好き。彼らと関われる新しい場所があるなら、ぜひ参加してみたい」という好奇心が、彼女をこの場所へと導きました。
全4回の養成講座に集まったのは、10代から70代まで、背景も職業もバラバラな市民たち。しかし、「木」と「遊び」という共通言語がある場所では、年齢の壁など最初からなかったかのように、自然と会話が弾んでいったといいます。
「講座を通じて、新しい仲間がたくさんできました。新しく『楽しい!』と思えるつながりができるなんて、想像もしていませんでした」

70%の「人の力」が、この場所に命を吹き込む
去る2月1日には、4期にわたって開催された養成講座の受講生115人が初めて一堂に会し、出発式を迎えたおもちゃ学芸員の皆さん。式典では、活動の象徴となるエプロンが一人ひとりに手渡されました。
名前を呼ばれ、少し照れくさそうに返事をする人、仲間と笑顔を交わす人。会場には、これから始まる活動への期待が漂っていました。

主催者を代表してあいさつに立った岡田武史は、次のように語りました。
「スタジアムのある里山エリアに、サッカーの試合がない日でも、人が集まり、子どもたちの笑顔が生まれる場所をつくりたい。その大事な役割を担ってくれるのが、みなさんです」
また、認定NPO法人芸術と遊び創造協会の多田千尋理事長は、こう話しました。
「おもちゃ美術館は、30%がおもちゃや空間。残りの70%は人の力です。 おもちゃ学芸員のみなさんが、この場所の魅力をつくっていきます」
エプロンを受け取った市民たちは、年齢も性別もさまざま。会社員や子育て世代、退職後の地域活動として参加する人など、実に多様な顔ぶれが集まっていました。
学芸員代表で挨拶をした重松さんのユーモアあるあいさつに、会場からは笑い声と温かな笑顔が広がりました。
「木のおもちゃが好き、子どもが好き。
そんな思いで集まった、ちょっと愉快な仲間たちです」
その仲間たちと、初めて館内を歩いたのが今回のツアーでした。


親子で同じ目線に立てる場所
館内を歩きながら、学芸員たちはおもちゃを手に取り、触れ、そっと音を確かめていきます。木のおもちゃは、触れるとやさしい手触りがあり、軽やかで心地よい音が響きます。
そんな様子を眺めながら、畑岡さんはこれから始まる時間を思い描いていました。
「子どもに教えるだけじゃなくて、逆に子どもに教えてもらうこともあると思うんです」
遊びの中では、大人が想像もしない発想が生まれることがあります。その「余白」がたっぷりとあること、そしてそれを隣で誰もが一緒に楽しめることこそ、おもちゃ美術館の魅力なのかもしれません。

山内さん親子もまた、館内を歩きながら同じようなことを感じていたといいます。
「ここは五感で遊べる場所ですよね。木の香りもあるし、触った感じも違うし、音もやさしい」
木のおもちゃを手に取りながら、紫さんはそう話しました。
「触っているだけでも楽しいと思うんです。子どもたちはきっと夢中になると思います」

そして、文さんが感じたのは、親にとっての時間だ。
「家ではなかなかできない遊びも多いと思うんです。思いっきり体を動かしたり、全身でいろんな感覚に触れたり。でもここだと、ブレーキをかけずに楽しませてあげられるんじゃないかな」
紫さんも重ねます。
「ここには、学芸員もスタッフもいて、子どもを一緒に見守る大人の目がたくさんありますよね。親も少し、ほっとできる場所になるんじゃないかなと思いますね」
遊ぶ子どもを見守りながら、親も少し肩の力を抜ける。そんな時間が生まれる場所になるかもしれません。
ようこそ!多世代が「遊び」で混ざり合う、開かれた居間へ
ツアーの最後、おもちゃ学芸員の皆さんはもう一度、館内をゆっくりと見渡しました。そこかしこに散りばめられた、子どもたちの五感を揺さぶる仕掛け。
初めてこの場所を歩いた皆さんですが、その表情には、ここで遊ぶ子どもたちの姿がすでにありありと浮かんでいるようでした。
開館の準備は、いよいよ整いつつあります。 まもなくここには、子どもたちの賑やかな笑い声が響き渡るでしょう。その傍らには、遊びを見守り、ともに楽しむ赤いエプロン姿の「おもちゃ学芸員」たちが、まるで一つのお茶の間でくつろぐ家族のように、温かく寄り添っているはずです。
サッカーを通じて地域コミュニティの可能性を広げてきたFC今治。その挑戦は今、ピッチの外側へと着実に広がり始めています。
いつか、ここで遊んだ子どもたちが大人になったとき。 ふとした瞬間に「あの木の匂いがする場所で、よく遊んだな」と思い出す。 そんな記憶の断片が、地域の新しい豊かさをつくっていくのかもしれません。
FC今治コミュニティ 編集部
小林友紀(合同会社企画百貨)