瀬戸内海を穏やかに望むアシックス里山スタジアム。2026年2月、この場所で、一組のカップルが一生の誓いを立てました。

新郎の帆足壮太さんは仙台、新婦の瑞貴さんは青森の出身。仙台の大学で出会い、現在はそれぞれ北海道と仙台で別居婚生活を送る二人にとって、今治は縁もゆかりもない土地……のはずでした。

なぜ、二人は人生の門出の場所に、このスタジアムを選んだのでしょうか。そこには、わずか8カ月の滞在が生んだ、濃密で温かい「つながり」がありました。

わずか8カ月。されど人生を変えた「Voyage」の経験

物語の始まりは、2023年。仕事の都合で壮太さんが今治に駐在することになったのがきっかけでした。

実は壮太さんが所属する企業は、FC今治のエグゼクティブパートナーを務めるパートナー企業。元サッカー少年の壮太さんにとって、仕事でクラブに関われることは大きな喜びだったといいます。そんな彼の情熱は、ビジネスの枠に留まりませんでした。

仕事としてクラブと共に企画を形にする一方で、「せっかくならば、もっとつながりを深めたい」と、プライベートでもFC今治のボランティアスタッフ「Voyage」に志願した壮太さん。ほぼ毎試合、運営に参加してきました。

「それまではプレーする側、あるいは観る側でしかなかった。でも、運営の裏側に立つことで、サッカーへの見方が180度変わったんです」

試合に勝っても負けても、スタジアムのゴミを黙々と拾い、帰路につくファン一人ひとりに「ありがとうございました」と声をかけるボランティアの仲間たち。

「誰かに強制されるわけではなく、みんなが当事者意識を持って、自分たちの手でチームを大きくしていこうとしている。その姿に感銘を受けました。ただのファンを超えて、自分もチームの一員なんだという実感が持てたんです」

壮太さんはいつしか、街のコミュニティにも深く溶け込んでいきました。週に一度、隣接する市営スポーツパークで行われる「草サッカー」には、クラブスタッフや地元の大人たち、移住者が50人近く集まります。「若者が一人で移住してきた」と珍しがられながら、白熱したプレーの合間に言葉を交わす。

ビジネスパートナーとしての信頼と、コミュニティの一員としての絆。その両方を深めた壮太さんにとって、今治はいつしか大切な「ホーム」へと変わっていきました。

サッカーを知らなかった彼女が、「スタジアムという場所」のファンに

一方で、当時遠距離恋愛中だった瑞貴さんは、サッカーには全くと言っていいほど興味がありませんでした。

「岡田武史会長のことも、実はよく知らなかったんです(笑)。『なんだかオーラのある人だな』と思いながら、後で調べて驚いたくらいで」

そんな彼女が今治という街に惹かれたのは、スタジアムから広がる風景でした。

「私の地元の青森県八戸市も海が近いのですが、今治の海はまた違った美しさがありました。そして初めて『アシさと』で試合を観た時、選手との距離の近さや、応援の熱量、スタッフの方々のきびきびとした動き……そのすべてが新鮮で。90分って長いなと思っていた私が、あっという間に時間が過ぎるのを感じたんです」

「それにサッカーというスポーツだけでなくて、スタジアムの周りでご当地のおいしいものを食べたり、みんなで盛り上がったりする。そんな『アシさと』という体験そのものを好きになりました」

彼が愛される場所を、二人の大切な場所に

その後、二人の関係が大きく動いたのは、2024年の7月。すでに今治を離れていた壮太さんがプロポーズの舞台に選んだのは、まさかの「アシさと」でした。

「今治に来たことで、人との出会いに恵まれ、成長させてもらった。そして、この場所を瑞貴も好きになってくれた。だからこそ、二人の新しい人生が始まる瞬間も、この場所で迎えたかったんです」

「夏の今治に行ってみたいね」という自然な誘いで計画された小旅行。当日、「VIPルームでの夜景モニター」という“嘘”に導かれ、瑞貴さんは再びスタジアムを訪れました。すると、見下ろしたグラウンドの電光掲示板(リボンボード)に突如、彼女へのメッセージが映し出されたのです。

「あまりの驚きに、泣くのを忘れて爆笑してしまったんです」と瑞貴さんは照れくさそうに振り返ります。

プロポーズはめでたく成功。エレベーターを降りた先に待っていたのは、かつて壮太さんが共に働いたFC今治のスタッフたちでした。

「彼がこの街でいかに愛され、支えられてきたか。その光景を見て、この人が大事にされているこの場所が、本当に素敵だなと確信しました」

岡田武史会長のアシスト、手作りのウェディング

そこからの展開は、まるでドラマのようでした。その夜、プロポーズの余韻に浸りながら訪れた行きつけのバー。そこで偶然隣り合わせたのは、なんと岡田武史会長でした。

驚きのシチュエーションの中、スタジアムでのプロポーズ成功を報告した壮太さん。これまでの活動や仕事での縁を知る会長は、二人の報告を自分のことのように喜び、「結婚式をするなら俺も出るよ」と約束。

アシックス里山スタジアムでの結婚式は、前例のない試みでした。しかし、これまでの帆足さんの熱意とクラブへの貢献を間近で見てきたスタッフたち。「彼のためなら」とZoomで打ち合わせを重ね、手作りで式を形にしていきました。

そして迎えた結婚式当日。そこには約束通り、正装した岡田会長の姿がありました。

さらに会長はサプライズで「ライブクッキング」を披露。かつてクラブ設立初期にスタッフや選手に振る舞っていたという思い出のパスタを、自ら二人のために調理したのです。

「岡田さんは『本当はミュージカルをやりたかったんだ』なんて仰っていましたが(笑)、わざわざ朝イチの飛行機で駆けつけ、パスタの練習までしてくださったと聞いて、感謝しかありません。とにかく、幸せな時間でした」

結婚式には、青森や仙台から両家の家族も駆けつけました。

最初、両親たちは「なぜ縁のない今治で式を?」と戸惑いを隠せなかったといいます。しかし、式が終わる頃、家族の心境は一変していました。

「式の最後に、父が『息子がいかにこの地で愛されていたか、なぜここを故郷にしたいと思ったのかが分かった』と言ってくれたんです」

「これからはFC今治のファンになります」。家族が口々にそう言ってくれたことが、二人は何より嬉しかったと言います。

青森、仙台、北海道……離れて暮らす家族にとって、FC今治というクラブが、絆を強める「共通言語」になった瞬間でした。

スタジアムは、人生の節目を刻む場所

現在も、二人はそれぞれの仕事のために離れて暮らす「別居婚」という形をとっています。けれど、心の拠り所はいつも今治にあります。

「今治は、離れていても僕たちがうまくやっていけるという自信をくれた場所です。サッカーは、日常に波を作ってくれる。負ければ悔しいし、勝てば一週間が明るくなる。そんな刺激がある街での生活は、本当に濃密でした」

アシックス里山スタジアムは、単にサッカーの試合を観る場所ではありません。そこには、移住者も、地元の人も、そして一度訪れただけの人も包み込む、温かい「里山」のようなコミュニティが広がっています。

「いつかJ1に昇格した時や、子供が生まれた時。人生の節目のたびに、またこのスタジアムに帰ってきたい」

二人が結んだ縁は、これからも瀬戸内の風に乗って、長く、深く、続いていきます。今治という場所を「ふるさと」と呼べるようになった二人の物語は、まだ始まったばかりです。


今回の取材を通じて、スタジアムが「試合の日だけのものではない」ということを改めて実感しました。

「一生分の運を使い果たしたかもしれない」と笑う壮太さんと、その隣で「今治が大好きになった」と微笑む瑞貴さん。二人が里山で受け取った幸せのパスは、これからも家族や友人、そして周りの人々へ、温かい記憶と共に繋がれていくはずです。

アシックス里山スタジアムが、これからも誰かの人生の大切な瞬間にそっと寄り添う場所であるように。二人の新しい門出を祝うスタジアムの芝生は、今日も変わらず青々と輝いています。

FC今治コミュニティ 編集部  
小林友紀(合同会社企画百貨)

※本件は特別なケースとなります。スタジアムでのウェディングやウェディングフォトに関するお問い合わせについては、内容に応じて個別にご相談を承っております。(問い合わせ先:info@satoyamastadium.com)