
春の気配が残る3月20日の夕暮れ時、アシックス里山スタジアムには、いつもとは少し違う空気が流れていました。
サッカーの試合があるわけでもない。
大きなイベントが開かれているわけでもない。
それでもそこには、確かに「人が集まり、関わり始めている」気配がありました。
その中心にいたのは、FC今治高校里山校の生徒たちです。

「サッカーに興味がなくても来たくなる場所って?」
「サッカーはあまり見ないです。でも、景色が良さそうだなと思って来ました」
イベントに参加していた中学生の一人は、この場所に来た理由をそう話してくれました。
サッカースタジアムというと、多くの人は「試合を観に行く場所」を思い浮かべます。
けれど、この日、生徒たちがつくろうとしていたのは、まったく別の入り口でした。
サッカーに興味がなくてもいい。
それでも「行ってみたい」と思える場所にすること。
小さくてもいいから「にぎわい」を作ること。
それが、彼らに与えられたテーマでした。
「サッカーはあまり見ないです。でも、景色が良さそうだなと思って来ました」
イベントに参加していた中学生の一人は、この場所に来た理由をそう話してくれました。
サッカースタジアムというと、多くの人は「試合を観に行く場所」を思い浮かべます。
けれど、この日、生徒たちがつくろうとしていたのは、まったく別の入り口でした。
サッカーに興味がなくてもいい。
それでも「行ってみたい」と思える場所にすること。
小さくてもいいから「にぎわい」を作ること。
それが、彼らに与えられたテーマでした。
このイベントは、FC今治高校里山校の授業「里山未来創造探究ゼミ」から生まれました。地域を学びのフィールドとする同校では、生徒たちが地元企業と手を取り合い、実社会の中で実践的な経験を積んでいます。
FC今治コミュニティ室も、ゼミの一環として8人の生徒たちを迎え入れました。約4カ月の間、スタッフと共にスタジアムへ足を運び、来場者の声に耳を傾け、現場の熱量に触れる日々。その中で、生徒たちはある一つの「現実」に突き当たります。
「多世代が集まる場所を目指しているけれど、実際には中高生の姿が少ない」
熱心なサポーターや、地域を支える大人たちのコミュニティは確かにある。しかし、その中間にぽっかりと空いた「空白の層」がありました。
「自分たちと同世代の人たちを呼ぶには、どうすればいいんだろう?」
その問いに向き合ったとき、彼らは視線を自分たち自身へと向けました。
「そもそも、自分たちが行きたいと思う場所って、どんな場所だろう?」

うまくいかないことの連続
たどり着いたのは、シンプルな答えでした。
「中高生なら、“映える場所”に行くよね」
そこから生まれたのが、スタジアムを歩き回り、自分だけのお気に入りを探す「映えスポット探索」という企画です。サッカーでも観戦でもない。けれど、カメラのレンズ越しにスタジアムを切り取るその瞬間、彼らは確かにこの場所と「関わり」始めていました。
FC今治コミュニティ室の秦健悟さんは、最初このアイデアを聞いたとき「本当にそれで人が来るのか?」と半信半疑だったと言います。「そんな簡単なことで来るのかな、と。でも、彼らが見せてくれた写真を見て驚きました。アングルも切り取り方も、僕らの発想にはないものばかり。その感性に触れて『これ、アリかもしれない。おもろいかも』と直感したんです」
同時に、秦さんは「企業人」としての関わり方も大切にしていました。
「生徒の感性を信じる一方で、企業と組むからこその『付加価値』も伝えたかった。例えば、スタジアム建設の裏側を知る職人さんのストーリー。そんな隠れた物語を重ねることで、イベントの厚みが増し、参加者の体験価値はもっと高まっていく。自分たちの枠を超えて周りを巻き込むこと。それこそが、社会での『仕事のやり方』なんだよ、と伝えながら併走してきました」

「やばい」が、チームを変えた
しかし、企画は決して順調に進んだわけではありませんでした。参加者は思うように集まらず、チーム内の認識もバラバラ。役割分担も機能しない。2年生の西村夏海さんは「目標人数すら共有できていなかった」と当時の足並みの乱れを振り返ります。

そんな彼女たちの前に立ちはだかったのは、「企業と共に働く」という圧倒的なリアルでした。伴走する秦さんは、「参加者のお土産を作りたい」と簡単に相談してきた生徒たちに、あえて厳しい言葉を投げかけました。
「缶バッジを作るのもタダじゃない。コストをいくらかけて、何個作って、どう配るのか。場当たり的に『とりあえず50個』じゃなく、その個数一つひとつにどんな意味があるのかを考え抜く。それが仕事や」
「頑張っているから、いいよね」という甘えは通用しない。西村さんは、自分たちが会社の経費を使って動いていることの重みを、突きつけられた瞬間の危機感をこう語ります。
「SNSで広報もしてるし、頑張ってるよね……という空気感がどこかにあったんです。でも、企業にお金を出していただいているのに、集客が追いつかないまま発注だけが進んでいく状況に『これ、やばくない?』って。それまでは『学校が用意してくれたプロジェクト』として、どこか受け身的に捉えていたけれど、もっと重く、分けて考えなきゃいけなかったんだと気づきました」

本当の転機が訪れたのは、イベント直前でした。中心メンバーが急遽、当日参加できなくなったのです。
「このままじゃ、まずい」
誰かを頼る時間は、もう残されていませんでした。自分がやるしかない。その強烈な当事者意識が、沈んでいたチームに火をつけました。完璧な準備には程遠いかもしれない。それでも、逃げ場のない「実社会」というフィールドで自分たちの足で前へと進み始めました。
スタジアムは「育っていく場所」
そうして迎えたイベント当日。
進行はぎこちなく、段取りも万全とは言えなかったかもしれません。
それでも、生徒たちがなんとか自分たちで準備し、場を回すその一生懸命さは、参加者の心に真っ直ぐに届いていました。
初対面同士が自然と会話を始める。
同じ景色を見て、「ここいいね」と笑い合う。
スタジアムを歩く中で、それぞれの“好き”が共有されていく。
そんな光景があちこちで起きていました。



参加したある高校生は、はにかみながら教えてくれました。
「スポーツにはあんまり興味がなかったんです。でも、写真なら自分にも手軽にできるかなと思って。その『入口の広さ』が、来てみようと思うきっかけになりました」
西村さんは、こう振り返ります。
「横のつながりができているのを見たとき、やってよかったな、成功っていっていいんじゃないかと思えました」
プロの厳しさに触れ、足並みのそろわないチームに悩んだ日々。その先で出会ったのは、確かに誰かの日常を明るくしたという実感でした。

イベントの最中、ゲストとして招いたスタジアム建設の立役者は、参加者に語りかけました。
「この場所は、単なるスタジアムではありません。人と街をつなぐ『心のよりどころ』となるよう設計された場所なんです」
「“成長するスタジアム”として、皆さんで育てていってほしいという思いが、込められています」

最初から完璧に作り込まれた場所ではなく、そこに集う人々の想いや活動によって、少しずつ形を変え、育っていく場所。
今回の生徒たちの挑戦もまた、スタジアムが100年かけて育っていく物語の一部になりました。
小さなにぎわいが、未来を変える
今回の取り組みは、規模だけを見れば決して大きなものではないかもしれません。けれど、これまでスタジアムに縁のなかった中高生が足を運び、そのきっかけを、同じ高校生たちが自らの手でつくりだした。
そこには何物にも代えがたい意味がありました。
「完成度以上に、自分たちでやりきった。そのことに意味があると思うんです」と秦さんは振り返ります。
「大切なのは、イベントの形をきれいに整えることじゃない。それはこれから、スキルとしていくらでも身につけられる。それ以上にチームでぶつかり合い、理解し合いながら、一つのものを作り上げること。一人では、何も成し遂げられない。そのことを感じてほしかった」

イベントの最後、参加者には生徒たちから「映えスター認定バッジ」が手渡されました。
それは単なる記念品ではなく、この場所の一員になった証。そして、スタジアムに「また来たくなる理由」や「誰かに伝えたくなる体験」を繋ぐ、小さな、けれど確かなきっかけです。
アシックス里山スタジアムは、「観に行く場所」から「関わる場所」へ。
スタジアムの成長は、まだ始まったばかり。100年かけて森が育つように、この日生まれた小さなにぎわいの種が、今治の未来を彩っていくことを確信した一日でした。
FC今治コミュニティ 編集部
小林友紀(合同会社企画百貨)