ライフラインは、お隣さん? 予測不能な未来を生き延びる「共助」への挑戦(後編)

豊かな社会、便利な暮らし。しかし、この平穏な日々は決して永遠ではないかもしれません。
前編ではそんな迫りくる未来への危機感をキーワードに、「共助のコミュニティ」をテーマにした議論をお伝えしました。
今回は現場での実践から見えてきた希望と、これからの展望をお届けします。
前編はこちら▼
繋がりを積み重ねる「共助の練習場」
コンソーシアムのメンバーが共有する、未来への危機感。しかしそれを声高に訴えるよりも、もっと身近で親しみやすい形で共助の精神を育んでいけるのではないか。そんな思いから、議論はより前向きなアプローチへと焦点が移っていきました。 そこで出てきたのが「共助の練習場」という、ちょっとユニークなキーワードです。
「まずは危機感を持っている人が立ち上がって『これが僕たちの目指す未来のモデルだ』というものを示してみる。そこで初めて周囲に、僕たちの目指す未来を伝えることができるんじゃないかと思うんです」(林さん)
「共助のコミュニティ」という、壮大でまだ形のないアイデアだからこそ、まるでショールームのように、その一部をスタジアムで体験できる場所を作ってみる。そうすることで、そのリアリティがより鮮明に伝わり、多くの人の関心を引きつけ、共感を広げることができるはず。 そんな林さんのアイデアに、共感の声が上がります。
「大切なのは、『困っていることも、みんなで手を貸せば意外と簡単に解決できる』という成功体験を積み重ねること。そして、『その小さな達成感の積み重ねが、大きな何かに繋がっている』という実感を得られることだと思います」(二宮さん)

さらに前田さんも「危機感や困っているという気持ちだけが、人を動かす力になるとは限らない」と続けます。
「何かを創り上げる喜びや楽しさに焦点を当てることで、もっと多くの人が、自分ごととして動き出せるのではないでしょうか。」(前田さん)
そうした、まさに「共助の実験」ともいえる動きは、実はこの半年でも少しずつ生まれてきています。その一つが、FC今治高校の生徒たちの活動です。実践を大切にするFC今治高校では、3年生になると学校の寮を出て、地域の中で生活します。そんな将来を見越して、すでに在校生たちは積極的に地域に出かけ、地域の人々との繋がりを築き、溶け込みはじめています。
「FC今治高校の生徒たちが創り始めている小さな繋がりから、きっと面白い何かが生まれてくるはずです。そして、その面白さに共感する人が増えれば、最終的には無理に危機感を煽らなくても、人々は自然とつながり合い、助け合うようになっていくと思うんです」(越智さん)

アシックスとFC今治が共同で運営する「アシさとクラブプロジェクト」でも、人と人との繋がりから、新しい可能性が見え始めています。
「アシさとクラブは、『ランニング』や『スポーツ』が共通の趣味の人が集まるコミュニティなんですけど、この間、スタジアムの畑で採れたほうれん草が余っているからって、みんなに配ったんです。そしたら今度は、『みんなで畑をやってみようか』なんて話も出てきて。人と人との繋がりが生まれる中で、新しい行動が自然と生まれてきているのを実感しています。」(山田さん)

「共助のコミュニティのなかで、運営主体と参加者と応援する人がつながれていて、何かをやろうといったときに、すぐ『いいね』って、ちっちゃいことが始められる、そんな繋がりがあることが大事なんじゃないか」(小林さん)
目的は一つでなくても、人が集い、交流する中で、自然と次のアクションが生まれたり、助け合いの精神が育まれていく。そうした具体的な事例が共有される中で、岡田会長が以前から示してきた「小さな賑わいが面になって、コミュニティとしての繋がりになっていく」というビジョンが、現実味を帯びてきます。
しかし、そんな議論の中で、こんな冷静な意見も飛び出しました。
「賑わいをきっかけにコミュニティが生まれる、というのは理解できます。しかしそれと、衣食住といった生活の基盤に関わるようなプロジェクトとは、少し性質が違うのではないでしょうか。ベーシックインフラに関わる事業は、もっと長い時間をかけて取り組んでいかないといけないものだと思うんです」(前田さん)

長期的な視点に立ち、「生き抜く」ために本当に必要な事業を、どのように立ち上げ、どのように持続可能な形で運営していくのか。議論は、より現実的なリソースの問題へと広がっていきます。
未来へ繋がる「仕組み」を、みんなで創る
実際、賑わいづくりの一環として進められてきた「アシさとクラブプロジェクト」では、この生まれたばかりの繋がりをどのように持続可能な事業へと成長させていくのか、活動を続けていくための資金をどう生み出していくか、という現実的な課題が常に担当者の頭の中にありました。

様々なステークホルダーが関わるこの壮大なプロジェクト。どのような規模で、誰が中心となって進めていくのか。どのように価値を生み出していくのか。林さんは、メンバーの合議制だけでは進まないフェーズに入ってきていると話します。
「今はそれぞれの余剰のリソースで、岡田さんの呼びかけのもと色々なことが動いているけれど、この動きをさらに加速させていくためには、その土台となる体制をしっかりと創り変えていく必要があると感じています。」(林さん)
その言葉の通り、FC今治では2月より「FC今治コミュニティ室」を立ち上げ、これまで以上にコミュニティ創りへ力を注いでいます。一方で「社会すべて」を包含するような広大なテーマに取り組む「共助のコミュニティ」構想。その実現には、企業の垣根を超えた組織の中で、各々の役割分担や連携、そして何よりも主体的に動き出す担い手の存在が不可欠です。そのための重要な一手として検討されているのが、一般社団法人の設立です。
「それぞれの活動を社団法人が一つに束ねることで、全体が大きな一つのコミュニティになっていく。そしてこのコミュニティに集う人たちが、会員あるいは市民として自由に結びつきながら、コミュニティの活動や事業を行き来したり、時には運営したり、そんな姿を思い描いている」(岡田さん)
岡田会長が描くのは、これまで個別に存在していた様々な活動を社団法人が事業として束ねながら、それぞれが価値と相乗効果を生み出す、そんな未来図です。

賑わい創出の試みから、より根源的なコミュニティ創りへの挑戦へ。様々な企業や団体が共鳴し、動き出し始めたこの壮大なプロジェクト。すでに走り始めているいくつかの取り組みが示すように、小さな繋がりはやがて大きな動きを生み出す可能性を秘めています。しかし、その熱意を持続させ、より大きなインパクトを生み出していくためには、初期の勢いだけでなく、しっかりとした運営体制の構築が急務となっています。林さんの言葉にもあるように、それぞれの善意や余剰のリソースだけでは、いずれ限界を迎えてしまうかもしれません。

この日、3時間余りにわたって続いた議論は、一旦は幕を閉じました。しかし、未来の子どもたちが希望を持って生きていける、持続可能な社会を目指して、これからも議論、そして実践は続いていきます。
決して、確かな答えがあるわけではない、地域のそして地球の未来。だからこそ私たちは、単なるサッカークラブという枠を超え、その問いに真摯に向き合い続けながら、新しい社会の可能性を追求し続けていきます。
取材 / 小林友紀(企画百貨)