FC今治、耕作放棄地を「みんなの田んぼ」へ 地域で未来を育む農プロジェクト

2025年6月22日(日)、「FC今治田んぼ」で田植えイベントを開催しました!総勢60名の参加者が集い、子どもから大人まで幅広い年代の人々が協力し合って、田んぼ作りに汗を流しました。
初対面の参加者同士でも、自然と「こうやって植えるんだよ」と苗の植え方を教え合ったり、慣れない田んぼで体を動かしながら笑いあったり。和やかな雰囲気の中、参加者全員の力を合わせ、約1反の広大な田んぼを手作業で無事に植え終えることができました。 普段何気なく食べているお米が、どのようにして食卓に届くのか。「育てること」の大切さと喜びを、参加者一人ひとりが実感できた一日だったと感じています。

実はこの「FC今治田んぼ」は、四国遍路の札所として名高い仙遊寺が所有しています。サッカークラブであるFC今治がなぜ田んぼに取り組むのか? そこには、地域への熱い想いと、住職の深いご理解、そして様々な方のご協力がありました。
「耕作放棄地をなくしたい」仙遊寺の願いとFC今治の挑戦
FC今治が「田んぼ」という新たな挑戦をスタートさせたのは一昨年のことでした。この取り組みのきっかけは、仙遊寺の住職・小山田憲正さんとの出会いでした。
住職のもとには、檀家さんから「田んぼの維持管理が難しい」という相談が年々増えていたといいます。 「私自身も修行に来る人たちと一緒に、水田の管理にあたっています。この土地も、もしFC今治さんがやらなかったら、私がサトウキビなどを作ろうと思っていました。耕作放棄地をそのままにしておくことだけは避けたいですから」と住職は当時の心境を語ります。

FC今治で田んぼを担当しているアサに、プロジェクトが始まった頃の話を聞きました。「当時のことなので、メンバーから聞いた話になりますが」と前置きしつつ、アサはその始まりを語ってくれました。
「耕作放棄地がたくさんあることを知り、そこから1反の土地をお借りして、しまなみ野外学校のリーダー・がってんが中心となって耕し始めました。まずは草刈りや草取りから始め、荒れた土地を稲を植えられる田んぼへと変えていく作業です」
ただ米を作るだけでなく、どうすれば環境にも優しい農法を実践できるかを追求し、自然農法を学ぶために松山へも足を運んだといいます。
「田んぼ作りについては、「シゼンタイ」の佐伯さんが師匠でした。田植えの仕方から日々の水管理まで、佐伯さんが現地に来て指導してくださり、その土地の環境や状況を見ながら、手探りでノウハウを身につけていきました」

「農業は修行だ」仙遊寺住職が語る、人生を豊かにする学び
私たちFC今治と仙遊寺さんに共通しているのは、農業を通して得られる「体験」、そしてそこから生まれる「学び」に大きな価値を見出している点です。
「農業は修行だ」と語る住職。
「例えば、食べ物に対する感謝の気持ちは、やっぱり自分で汗をかいて育てた作物を食べることで育つと思うんだよね。それに厳しい自然の中での労働は、学問だけではない、広い意味での勉強になるでしょう。」

そんな想いから、仙遊寺では長年にわたって修行僧や地域の皆さんと一緒に、里山の保全活動を続けてきました。土地を開墾し、イノシシやシカ、サル、タヌキといった野生動物も暮らす環境の中で、農の営みを修行の一環として実践しています。
「昔の人には知恵があったんです。例えば、水平を測るのに、水を入れたパイプを使えばいい。垂直を測りたければ、糸に石を吊るせばいい。こういう知恵は、学校の勉強だけで身につくものじゃないでしょう?」

こうした考え方は、FC今治の目指す方向とも深く共通しています。
「人間だからできる『体験』にこそ価値がある」という信念のもと、FC今治では「しまなみアースランド」での環境教育プログラムやmoricco、「しまなみ野外学校」での野外教育、そして昨年からは今治明徳学園が経営する「FC今治高校里山校」のカリキュラムのなかでも、実践や体験に重きを置いた教育を一緒にサポートしています。実際に、FC今治田んぼでは昨年、FC今治高校里山校の1年生たちと一緒に田植え、稲刈りを実施しました。

住職は、未来ある子どもたちが自然から学べることは計り知れないと話します。
「自分で汗を流して、しんどい労働をすることこそ、大事なんです。何でもすぐにスマホで調べるのではなく、自分で考え、判断する力を養ってほしい。学歴よりも大切なのは、何を学んだか、そしてそれをどう活かすか。それしかないと思います。」

田植えイベントで生まれた、かけがえのない交流
今回の田植えイベントを通じて、アサにどんなことを感じたのか、聞いてみました。 「皆さんと一緒に一日作業をしてみて、知らない人たちが協力し合い、同じ作業をすることで自然と会話が生まれていく光景が、本当に素晴らしいなと思いました。年齢や属性もバラバラなのに、大人が自然と子どもを見守るような、温かい雰囲気がそこにはあって。まさにさまざまな多様な人々が混ざり合う、交流の場所になっていましたね。」

参加者の中には、今回が初めての田んぼ体験という方も少なくありませんでした。「身近に田んぼがあっても、なかなか関わるきっかけがない人もいるんだなと改めて感じました」とアサ。
子どもたち兄弟と3人で参加してくれたお母さんは「FC今治さんは、なかなかできない体験をいろいろと提供してくれていて、今回の田植えも、普段できないことだからこそ、子どもたちが本当いきいきしているなって見ていました」と、子どもたちの目の輝きが印象に残った様子。
実は、このご家族、前回の「どろリンピック」にはお子さんだけで参加してくれました。その体験がよほど印象深かったのか、「お母さんと弟も行った方がいい!」と、お子さん自身が誘ったそうです。
お母さんは「子どもたちの体験を、親も共有できる機会は本当に貴重です」と、私たちが提供する「本物の体験」が、親子の絆を深めるきっかけになっていることに感謝の気持ちを伝えてくれました。

子どもたちが一生懸命汗をかきながら、農業に参加することについては、アサも大きな期待を寄せています。「手探りで、汗をかきながら、自分たちでお米を育てる経験を通して、将来『お米を作ってみよう』という気持ちを持ってくれたらうれしいですね。食への関心はもちろん、農業を担う未来の世代を育むきっかけにもなればと考えています。」

地域を育む「FC今治田んぼ」の未来
FC今治の「FC今治田んぼ」は、単なるお米作りを超えた地域の繋がりを育む場所へと、これからも進化を続けていきます。最後に今後の展開について尋ねると、アサの熱いビジョンが垣間見えました。
「今治には、まだまだ耕作放棄地がたくさんあります。労力も考慮しながらですけど、そうした土地を活用したり管理したりできる方法も考えていきたいです。
最終的には、『気づいたら誰かが草抜きをしている』ような、地域の人みんなが気にかけるような、そんな場所にしていきたいですね。」

子供たちが笑い、大人たちが額に汗を流しながら会話を交わす。そんな温かいコミュニティが「みんなの田んぼ」から生まれ始めていました。土に触れ、作物が育つ喜びを感じることはもちろん、新しい仲間との出会いや、一緒に何かを成し遂げる達成感は、きっとかけがえのない体験になるはず。
ぜひ、あなたもこの「みんなの田んぼ」に参加して、泥だらけになりながら、一緒に楽しみませんか?田植え、稲刈り、そして収穫祭。それぞれの季節に、ここでしか味わえない感動が待っています。

取材 / 小林友紀(企画百貨)