FC今治が描く“未来のコミュニティ構想”とは?アシックス、イオンモールなど6社と挑む新プロジェクトが始動
2024年10月、(株)今治.夢スポーツ(FC今治運営会社、以下「FC今治」)はリスタート10周年という大きな節目を迎えました。ここまで歩んできた道のりの中で、たくさんの応援が集まり実現した「アシックス里山スタジアム」という夢。このスタジアムは、単なるサッカー場ではありません。“地域の人々が集い、共に未来を創るための拠点”として、スポーツという枠を超えた「心の豊かさ」を育む場所でありたい。
そんな思いから、11年目の今、スタジアムを起点とした新しいコミュニティ「FC今治コミュニティ」づくりを進めるコンソーシアムを立ち上げました。
雨続きだった今治に秋らしい爽やかな風が吹いたこの日、屋外での記者会見を開催しました。この記事では当日の様子とそれぞれが語ったコミュニティづくりへの思いをお届けします。
FC今治が描く「共助のコミュニティ」とは?
FC今治では、これまでの10年間でファン・サポーターやパートナー企業をはじめ、FC今治に関わってくださる皆さまと、「FC今治ファミリー」という温かいつながりを築いてきました。サッカーへの馴染みが、決して強いとは言えなかった今治。この地で今もこうして活動し続けられているのは、一つひとつの出会いを大切にし、意見をぶつけあいながら、共感や応援の輪が少しずつ広がっていったからこそです。そして、これからその絆をさらに一歩深め、お互いの暮らしを支えあう濃い関係づくりをしたいと考えています。
それが、人と人とが支えあい、助けあう「FC今治コミュニティ」です。
その先に私たちが見据えるのは、地球温暖化、食糧問題、貧困、孤独、そして大規模災害といった予測不可能な社会課題に対しても、協力しあいながら立ち向かっていける力を取り戻すことです。
私たちはアシックス里山スタジアムを中心に、顔が見える人と人との関係性を創っていきたいと考えています。そしてお互いの強みを持ち寄ることで助けあい、最終的には衣食住を保障しあえる、そんな「共助のコミュニティ」を目指します。
その第一歩として、衣、食、住、健康、芸術、イベントなど、スタジアムと市民の皆さんの興味関心を繋ぐきっかけとなる賑わいを、コンソーシアムの企業とともにつくることで、スタジアムが気軽に集まれる場所となることを、まずは目指していきます。
この「FC今治コミュニティ」の構想の裏には、岡田武史会長の並々ならぬ思いがありました。
「心の豊かさを大切にする社会創り」を実現する大きな一歩
「10周年を迎え、まるで第2創業期のようだと感じています」会見で、開口一番、岡田会長はそう口にしました。
「10年前、会社を設立した際、私たちは『次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会作りに貢献する』という企業理念を掲げました。
我々は売るものは何も持ってません。でも元気は売れる、勇気は売れる、夢は売れる。そういうものに経済が回っていかないと、必ず世界は行き詰まると思ってきました。
地球は有限です。みんなが競い合って成長したら、必ずパンクするか取り合いになる。そのときに、『物質的な成長じゃなくて、数字で表せない文化的な成長で幸せに暮らしていく』っていう方法も必要だろう。そう思って、この企業理念を掲げました」
「昔は、助けあいの精神が当たり前の社会でした。しかし現代社会は効率化を優先するあまり、人のつながりが希薄になりつつあります。
僕たちはもうすでに、経験したことのないような災害や気候変動など、様々な課題に直面しています。インターネットで調べても、AIに尋ねても、解決策は見つかりません。つまり、自分で考え、行動し、互いに助けあわなければいけない。
そんなときに周りが同じような人ばっかりだと、一つのことで倒れてしまう。多様な人がいて、それぞれの強みを活かすことで、共存できるようなコミュニティが必要だろうと思うんです。
僕はこれを『共助のコミュニティ』と呼んでいます。衣食住をはじめとする生活基盤を互いに支えあい、お互いの価値観を尊重しながら、豊かに暮らす場です。例えば、衣服を融通しあって、一緒に田んぼや畑を作って、カフェのキッチンで食事を一緒に作って食べたり、空き家をみんなで直して住んだり。
物質的な豊かさだけでなく、互いに支えあうことで心の豊かさも育むことができるコミュニティこそ、これからの世の中に必要なんじゃないかと思うんです」
ともにコミュニティづくりを目指す参画企業の思い
岡田武史会長の思いが共感を呼び、立ち上がった「FC今治コミュニティ・コンソーシアム」には、FC今治のほかに6社の企業が参画しています。
会では、それぞれの代表者がコミュニティづくりへの思いを語りました。
株式会社アシックス /「アシさとクラブ」で心とからだの健康をサポート
「これまで、FC今治さんとのプロジェクトをご一緒する中で、アシックス内でも様々なアイディアが生まれてきました。その一つがランニングクラブです。「アシさとクラブ」プロジェクトは、市民の心と身体の健康をサポートするプログラムを提供し続け、今治市民を中心とする地域内外の地域住民に愛され続けるコミュニティ作りを目指しています」
「スポーツには大きな可能性があると信じています。日本、特に地方において人口減少と高齢化が進んでいく中で、スポーツがどのような役割を果たせるのかを、この取り組みを通して検証していきたい。ランニングクラブのようなスポーツコミュニティが成功すれば、今治から他の地域に広げていくことも、可能だと考えています」
イオンモール今治新都市 / 里山エリアに賑わいと交流を生み出す
「イオンモール今治新都市では、開業以来、FC今治さんと様々な取り組みをしてきました。昨年はフードコートに大型ビジョンを設置し、試合をパブリックビューイングで楽しんでいただけるようになりました。今後も、商業施設としての役割を最大限に果たし、地域を盛り上げていきたいと思っています」
「2026年春には、おもちゃ美術館を誘致することが決まっていますが、このプロジェクトは、今治市、東京おもちゃ美術館、そしてFC今治とイオンモール今治新都市が一体となって取り組む、大きなプロジェクトです。コンソーシアムの一員として、このプロジェクトをともに成功させ、里山エリアの賑わい創りに貢献したいと考えています」
株式会社アーバンリサーチ /「TINY GARDEN」で心地よい空間を創る
「私たちは、ファッションを通じてお客さまに特別な体験と感動を提供したいと考えています。その一環として、アシックス里山スタジアムでもこれまで2回、『TINY GARDEN FESTIVAL』を開きました」
「今後はこの取組みを広げて、まずは里山ジャルダンの芝生エリアを『TINY GARDEN by URBAN RESEARCH』と名付け、大人も子供も楽しめる庭として整備していく予定です。
また年1回の大型フェスだけでなく、定期的なイベントを通じてこの場所に活気を生み出し、将来的には今治で、体験価値を重視した次世代型拠点の実現に向けて動いていきたいと考えています。
ファッションを通じて、人々に喜びや楽しさを提供することで、FC今治コミュニティを盛り上げていきたいと思っています」
株式会社NINO / スタジアムから始まる関係性をていねいに紡ぐ
「コミュニケーションのデザインをなりわいとしている私たちは、今回のコンソーシアムでの取り組みに関する情報発信を統轄しながら、このコミュニティをより広げていくことを目指していきます」
「また、私たちが地域コーディネータとして携わっている愛媛県と東京藝術大学の協働プロジェクト『art venture ehime』の舞台としても、このアシックス里山スタジアムが活用されており、愛媛県内で130人の中から選ばれた『ひめラー』という多様な背景を持つ方々が集って、アートを通して人や地域を結ぶコミュニティづくりを学びながら実践しています」
スタジアムを取り巻く多様な関係性を紡いでいくことを、私たちはデザインの力でチャレンジしたいと思っています」
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 / コミュニティの価値の見える化に挑戦
「私たちは企業の変革だけでなく、地域社会の変革にも積極的に取り組んでいます。特に、地域活性化を目的とした『ローカルトランスフォーメーション(LX)※』は、私たちの経営においても重要
「私たちは、企業評価の仕組みを応用し、コミュニティづくりの数値評価・改善の観点からを支援していきます。
具体的には「SROI(社会的投資収益率)」という財務に限らず社会的インパクトを数値化する手法を用いて、この取り組みの価値を可視化。数値分析をもとに、このコミュニティの活性化を支援し、より良い社会の実現に向けて貢献してまいります」
※LX:地域固有の個性や強みを活かし、地域全体を活性化させる取り組み。
株式会社paramita / 共助の仕組みづくりに伴走する
「私たちは、地方自治体を補完するシステムとして、住民参加の自治機能を果たす新たな共同体OS『Local Coop』を開発しています。この今治の地でも、公共サービスの提供や地域課題の解決を、自治体頼みではなく共助の仕組みを実装することによって推進し、より良い地域社会の実現を目指したいと考えています」
「地域の主役は、これからの未来を担う若者たちであるべきです。そこで、FC今治高校里山校と連携をして、生徒の皆さんと一緒に地域の中に飛び込んでいきます。今の行政だけでは解決できない課題に向きあうとともに、困りごとを解決しあうサイクルを作っていきたいと考えています」
コミュニティの担い手となる高校生と企業の“関わりしろ”
今回のプロジェクトでは、2024年4月に開校したFC今治高校里山校(FCI)とも連携し、コンソーシアム各企業とともに、FC今治コミュニティづくりを進めていきます。
「FCIは『命をつなぐために、生きることの本質を問い、実践する』という教育理念のもと、何が起こるかわからない時代を強く生き抜いて、『共助のコミュニティ』を率いていくキャプテンを育てることを目指して、立ち上がった学校です」
「授業には社会で活躍されている方々を積極的に講師として招き、生徒たちは実社会で役に立つことをたくさん吸収しています。同時に、生徒たち自身が積極的に学校の外へ飛び出し、地域との連携を深めています。
3年生からは寮を出て、空き家を改修したシェアハウスに住んだり、地域の高齢者の方々のお宅で手伝いをしたりしながら、地域の一員として生活を送ることを目指しています。
また、企業と連携して取り組む「里山未来創造探究ゼミ」では、子供たちが自ら立てた問いに、企業の方々に伴走していただきながら、地域の課題解決を通した学びにチャレンジしています」
「企業の皆さまと学校とがより連携を深めながら、未来の担い手を育てる学びの場としても、より良い関係性が創っていけたらと思っています」
「共助のコミュニティ」が次世代の希望になることを夢見て
いよいよ動き出した、大きなプロジェクト。岡田会長は、熱意を込めてこう語りました。
「我々は次世代に希望を残さなきゃいけないと思ってます。そしてその希望こそが、僕は『共助のコミュニティ』だと思ってます。
全ての生物は命をつなぐために生きてます。人間だけが、自分のために生きてるのかもしれない。それを少しでも変えていきたいという思いで、この今治で仲間たちと新しいコミュニティ作りを始めました。
今日が、その記念すべきスタートです」
取材 / 小林友紀(企画百貨)