2026.01.27

サッカークラブなのにランニング?FC今治とアシックスが運営する「アシさとクラブ」が2,000人規模に広がったワケ

FC今治とアシックスがともに運営するランニングコミュニティ「アシさとクラブ」。走る楽しさを共有する場としてスタートしたこのクラブは、気づけばこれまでの参加者人数が延べ2,000人(※2025年12月末時点)を超える規模へと広がっています。

なぜ、これほど多くの人がつながり続けているのか。実際に取材してみると、ランニングの時間だけでは説明しきれない、独特の空気感や関係性が見えてきました。

今回の記事では、3人のクラブ会員の声をたどりながら、アシさとクラブの内側をのぞいていきます。

「走ることで、自分が整っていく」里山マラソンをきっかけに広がった世界/大野健太さん

「走るようになったのは、ほんとに最近なんですよ」

そう話す大野さんが、ランニングを始めたのは昨年の9月。きっかけは、今治里山マラソンへのエントリーでした。

「コースを歩いて下見したら、思っていた以上にきつくて。高低差があって、これはノー練習じゃまずいなと」

エントリーしたのは10キロ。「どうせやるなら、ちゃんとした環境で練習した方がいい」と思い、探して見つけたのがアシさとクラブでした。

「走力に自信はなかった」と言いつつも、より上級者向けのアスリートクラスに飛び込んだ大野さん。ヒートトレーニングで追い込まれ、そこからスタジアムの外周を走る本格的な内容に「きついけど、おもしろい」と感じたと言います。

それまで約2年間、筋トレに取り組んでいたという大野さん。ジムのトレッドミルで軽く走ることはあっても、楽しさは感じられなかったと言います。

「黙々と走るだけは、正直おもしろくなくて。どうせやるなら、上手な人が集まる場所でやった方が成長できると思ったんです」

速い人の“所作”を盗む

アシさとクラブに通い続ける理由を尋ねると、真っ先に返ってきたのは「人がいい」という言葉でした。

「雰囲気がすごく良くて、人もいい。分からないことは何でも教えてくれるし、これは続けられそうだなと思いました。それに速い人が本当にたくさんいて、勉強になるんです」

どういう意識で走っているのか、どんなモチベーションなのか。ウェアの選び方や、走る前後の所作まで、自然と目がいくようになったそうです。

「上手な人を見て、盗む。なんでこの人は速いのか、そこを知りたいんです」

そして迎えた今治里山マラソン本番。
下見で歩いた厳しいコースを、走り切りました。

「ランニング歴3カ月半で、年代別で18位、総合で106位。51分半でゴールできたんですよ」

当初と比べて、タイムは半分以下に。「周りにもっと速い人がいるから、自分の限界が引き上げられた」と振り返ります。

次の目標も、すでに見えています。

「来年は50分を切りたい。1キロ5分を切るペースで、坂道10キロを走り切れるようになりたいですね。こうやって数字で考えられるようになったのも、ここに来るようになったおかげです」

アシさとクラブは「自分を整える場所」

大野さんにとって、アシさとクラブはどんな存在なのか。
そう尋ねると、少し考えて、こんな言葉が返ってきました。

「ストレス発散の場で、トレーニングの場で、出会いの場で、癒しの場。あと……チューニングの場ですね」

ピアノの調律のように、自分を整えてくれる場所。

「いい環境で、いい人たちと、好きなことをやる。それだけで、全部が良くなる気がするんです」

39歳の今、ランニングという「20年以上遊べるゲーム」に出会えたことを、「すごくラッキー」と笑います。

「多分、これからも一生やると思います」

走ることで、身体も心も整っていく。
アシさとクラブは、大野さんにとって日常の軸になりつつあります。

「一人では行けなかった高みへ」/大澤誠さん

「ただ走るだけじゃ、もう一段上には行けない気がしていたんです」

そう語るのは、アスリートクラスに参加する大澤さん。もともとは一人で黙々と走る“ソロラン派”だったといいますが、クラブへの参加を機に、その走り方も、人との関わり方も大きく変わったのだそう。

大澤さんがアシさとクラブに参加したのは、2024年の3月ごろ。もともと走る習慣はあったものの、「ちょっと高みを目指してみようかな、という淡い気持ち」で、アスリートクラスの門を叩いたといいます。

ただ、最初は戸惑いもありました。

「クラブが立ち上がって時間も経っていたし、顔見知りの参加者同士ばかり。途中参加だった分、正直ちょっとアウェイ感はありましたね」

それでも足が遠のかなかったのは、場に流れる空気のおかげでした。

「共通の趣味がある人たちの集まりなので、分かり合える感覚があったんです。走るっていう共通言語があるので」

「距離を踏む」から「身体を使う」へ

アシさとクラブに通い始めて、大きく変わったのは走りへの意識でした。

「それまでは、とにかく距離を踏めばいいと思っていたんです。でもここでは、身体の使い方や刺激の入れ方を意識するようになりました」

ただ走るのではなく、ペースを段階的に上げる練習や、フォームを意識したトレーニング。アスリートクラスならではの本格的な内容に触れる中で、記録にも変化が現れ始めました。

一方で、場の雰囲気は決して“ストイック一辺倒”ではありません。

「本格的にやりたい人もいれば、楽しく走りたい人もいる。そのバランスがすごくいい。どんな相手とも、応援し合えるの関係がありがたいですね」

「正直、名前と顔が一致していない人も多いです。でも、それが悪いとも思っていなくて。深く知らなくても、一緒に走れる関係性が心地いいんです」

それでも自然と仲は深まり、クラブを離れて忘年会を開くほどのつながりも生まれたのだそう。大人になってから、趣味を通じて関係が広がっていくこと自体が新鮮だと、大澤さんは話してくれました。

「場を支える側」として、コミュニティに関わる

今ではアスリートクラスでペーサーも務める大澤さん。参加者であると同時に、場を形づくる一人としても、活動を支えています。

「せっかく作ってもらったクラブなので、参加する側も汲み取って、もっといい場にできたらって思って」

ただ「与えられる場」に身を置くのではなく、自分もその一部として関わる。そんな主体的な関わり方が、クラブの空気を参加者一人ひとりにとって居心地の良いものにしています。

活動を続ける中で、次に目指す景色も見えてきました。
「クラブ外のイベントや大会に、アシさとクラブのメンバーで一緒に参加できたら面白いなと思ってます」

走ることは個人の挑戦でありながら、仲間と共有できる体験にもなる。クラブで育まれた関係性が、フィールドの外へと広がろうとしています。

「アシさとクラブは、僕のマラソンの記録を高めてくれる場所」

一人では越えられなかった壁も、誰かと並んで走ることで越えられる。走ることを通じて人とつながり、そのつながりが自分自身を押し上げていく。

アシさとクラブは、競技の成果だけでなく、関わる人それぞれの挑戦を支え合う場所なのかもしれません。

「走ること」から広がった、私の居場所 / 濱田芳栄さん

「アシさとクラブに参加したきっかけは、去年の今治里山マラソンでした」

そう話す濱田さんは、市内で働きながら数年前から趣味だというマラソンを続けてきました。とはいえ、もともとは練習を黙々と積み重ねるタイプではないようで・・・?

「一人では、正直なかなかやらないんです。切羽詰まらないと動けなくて」

そんな濱田さんが偶然目にしたのが、今治里山マラソンの参加者向けチラシに載っていた「アシさとクラブ」の存在。大会を終えたあと、ちょうど「どこか練習できる場所はないかな」と探していたタイミングでした。

そこから濱田さんは、開催日には基本的に顔を出すように。クラブの魅力を尋ねると、迷わずこう答えます。

いろんな人に会えることですね。でも、どこで何をしている人かはほとんど知らないんです。ただその場に行くと顔を合わせて、楽しく走る。それがちょうどいいんです」

深く踏み込みすぎない関係性。だからこそ、気を遣いすぎずにいられる。仕事と家の往復で窮屈さを感じていた濱田さんにとって、それはとても大切な感覚でした。

「コロナ禍を経て、以前参加していたマラソンや自転車のコミュニティが全部なくなってしまって。どうしようかなと思っていた時期だったので、余計にホッとしました」

「参加する」の、その先へ

アシさとクラブでは、参加するたびに「トークン」がたまり、集めたトークンの数に応じて、特別なイベントに参加できるチャンスが生まれます。

「ほとんど皆勤賞」の濱田さんはその仕組みを活用して、日本陸上界を牽引してきた桐生祥秀選手をゲストに迎えた「IMABARI GINZA RUN 2025」にも参加。

「オリンピックに出るような人に会えるなんて、普通ないですよね。サインをもらったり、写真を撮ったりできることも滅多にない!」

参加回数を重ねるうちに、「参加するだけ」から「ちょっと手伝う」へ、濱田さん自身の関わり方も少しずつ変わっています。

たとえば、アシさとクラブで顔を合わせるFC今治高校里山校の生徒が企画した「今治スマイルマラソン」では、大会当日、ボランティアとしてサポートに入りました。

「ランナーとして走ろうかと思っていたんですけど、大会直前の様子を見て『大変そうだな』って思って。それなら走るより手伝おうかなって」

特別な意識があったわけではありません。ただ、その場にいる一人として自然に体が動いた、と濱田さんは振り返ります。

実は取材日はクラブメンバーで1年間の活動を労うパーティーの日。パーティーの企画についても、事前にメンバーにアイデアを募る場面があったのですが、誰もが様子を見ているタイミングで、最初に口火を切ったのは濱田さんでした。

「誰かがやらないと進まないなと思って、一歩を踏み出しただけです。『ファーストペンギンですね』って言われましたけど、そんな大それた気持ちはないですよ」

ここは「ホッとできる居場所」

今の濱田さんにとって、アシさとクラブはどんな存在なのでしょうか。

「ホッとする場所、ですね」
来たら誰かがいて、走って、ちょっと話して帰る。それだけで整う感じがします

走ることを楽しみながら、顔なじみの人と軽く会話を交わしたり、ちょっとした手伝いをしたり。濱田さんのお話を聞いていると、そんな小さな行動の積み重ねで生まれる「ゆるやかなつながり」が、自然と「自分もここをつくる一員だ」という感覚を育てているように思えました。

取材を終えて

今回の取材で改めて感じたのは、アシさとクラブが単なる“運動の場”ではなく、参加者一人ひとりが自分ごととして関わり、つながりを感じ合える“居場所”になっているということでした。

ちょっとした関わりや声かけから自然に生まれる参加者同士のつながりは、楽しさを入り口にゆるやかな関係性となり、互いに支え合う豊かなコミュニティを育んでいます。そしてこの場所そのものを一緒につくっていく。そんな「クラブ活動」としての姿が、少しずつ形になっているのを感じました。

コミュニティは、無理に作ろうとするものではなく、楽しい時間や共通の目的を共有した結果として自然に生まれるものなのかもしれません。そしてその小さな「ゆるやかなつながり」の積み重ねが、日々の暮らしの質を少しずつ底上げしてくれる。そのことを、アシさとクラブは教えてくれているように感じました。

FC今治コミュニティ 編集部  
小林友紀(合同会社企画百貨)

アシさとクラブではカラダを動かして一緒に楽しむ仲間を大募集!さあ、あなたも参加しませんか?