「障がいがあるからサポートする」のではなく、「一人のサッカー好きとして、一人のアスリートとして共に楽しむ」。
アシックス里山スタジアムを拠点に、FC今治が描き続けているのは、年齢、性別、障がいの有無といった境界線を越え、誰もが自分らしくスポーツに親しめる社会です。その理想を「きれいごと」で終わらせないために、私たちは今治の街でいくつかの活動を続けています。
今回の記事でスポットを当てるのは、街へ飛び出して開催した「パラスポーツフェスティバル」と、ホームグロウンコーチたちによる特別支援学級・特別支援学校の子どもたちのためのサッカースクール。
それぞれの現場で見えてきたのは、障がいの有無という違いを受け止めながらも、スポーツを通して同じ時間を楽しむ、日常の風景でした。
「知らない」を「知っている」に裏返す
2025年12月、イオンモール今治新都市に、心地よい「音」と「熱気」が響き渡りました。鈴の入ったボールが転がる音、義足の板バネが床を蹴る音、そして子どもたちの歓声。この日、開かれていたのは、アシックスとFC今治がタッグを組む「アシさとクラブ」主催のイベント「パラスポーツフェスティバル」です。

イベントの企画をリードしたのは、自身もパラアスリートとして活動するアシックスの田巻佑真さん。
「パラスポーツはまだ、日本では『多少は知っているけれど、実際はどういうものか分からない』という段階の方が多いと感じています。今治という地域で、スポーツを通じた健康づくりを推進する中で、パラアスリートの目線からその魅力を直接伝えたかったんです」
義足が「かっこいい」に変わる瞬間
イベント当日、田巻さんが担当したのは「義足体験」。初めて競技用の義足を履く大人たちは、「こんなに硬いんだ!」「バランスをとるのがこんなに難しいなんて」と目を丸くしました。一方で、子どもたちは驚くほど素直に、そして好奇心いっぱいにそのテクノロジーを受け入れていました。
「子どもたちが、僕が履いている義足を直接触って、『中はどうなってるの?』とワクワクした表情で聞いてくる。その好奇心が、障がいに対する心の壁を取り払っていく瞬間に何度も立ち会いました。知ることで、認知や関心は確実に変わる。その手応えがありました」と田巻さんは振り返ります。

ブラインドサッカー選手としても活躍するパラスポーツ企画部の若杉遥さんは、今治という土地での開催に「大きな伸びしろ」を感じたと言います。
「東京に住んでいると、ブラインドサッカーを『見たことがある』と言われる機会も増えました。でも今治では『本当に初めて知りました』という方がたくさんいらっしゃった。
知らないものは、どうしても過剰に怖がったり、身構えたりしてしまいがちです。だからこそ、まずは知ってもらうための『初めの一歩』を、こうして地域の皆さんが行き交い、集まる、イオンモールという場所で踏み出せたことは、大きな一歩でした」

必要なのは「過剰な配慮」ではなく「想像力」
私たちが抱きがちな「障がいがある方には、何か特別な、過剰な配慮をしなければならない」という思い込み。しかし、それは時に、相手を「自分たちとは違う世界の人」として遠ざけてしまう境界線にもなり得ます。
実際にパラスポーツに触れ、共に笑い、同じボールを追いかけてみると、そこにあるのは一人のアスリート、一人のスポーツ好きとしての等身大の姿です。
求められているのは、特別な配慮ではありません。相手が今何を必要としているかを想像し、声をかける。そんな、ごく当たり前の「歩み寄り」だけなのです。
「知らない」という壁が溶け、「知っている」という親しみに変わる。その小さな変化の積み重ねが、誰もが自然に混ざり合える社会を作っていくのだと、この日の熱気が教えてくれました。
1人ひとりの「特徴」に向き合うサッカー教室
イベントという「点」の活動がある一方で、それらを日常という「線」につなげているのが、FC今治ホームグロウンのコーチたちの活動です。
県内の特別支援学校を巡る「巡回教室」や、2024年4月から本格始動した、障がいのある子どもたちのためのサッカースクール「スペちゃれ」。担当する有間潤コーチと助村凜太郎コーチは、活動を通して得た、ある「気づき」について語ってくれました。
「身構えていたのは、僕らの方だった」
活動を始めた当初、二人の胸の内には不安があったと言います。「障がいへの専門知識があるわけではない自分たちは、どう接するのが正解なのか……」。しかし、いざ子どもたちとボールを蹴り始めると、その不安はすぐに消え去りました。
「スクールに来る子どもたちと何も変わらなかったんです。1人ひとりが違う特徴を持っているだけで、その子に合った声掛けやメニューを考えるのは、ふだんの指導と地続きでした。むしろ、身構えて壁を作っていたのは僕らの方だったんだと気づかされました」(有間コーチ)

もちろん、現場では特有の工夫も凝らされています。しかし、それは決して特別なものではなく、誰にとっても「わかりやすさ」につながるものでした。
例えば、指示は長い文章を避け、「まず、走る」「次は、蹴る」と短く区切って伝えること。色の見え方に配慮し、識別しやすい位置にマーカーを置くこと。そして何より、小さな「チャレンジ」の瞬間を逃さず褒めること。
「勝ち負けにこだわりすぎて、負けるとパニックになってしまう子もいます。でもそこで『勝負だけじゃないよ、さっきのあの動きは最高だったよ』とプロセスを評価し続ける。すると、少しずつですが感情のコントロールができるようになったり、コーチを信頼して寄ってきてくれるようになったりするんです。その変化が何より嬉しいですね」(助村コーチ)


想像力のスイッチを入れる
コーチたちが「スペちゃれ」で磨いているのは、単なる手法ではありません。それは、あらゆるコミュニケーションの根幹にある「相手への想像力」そのものです。
言葉の選び方、視線の合わせ方、そして一人ひとりの個性を尊重すること。「スペちゃれ」で生まれている心地よい空気感は、実はすべてのサッカースクール生、ひいてはスタジアムに集まるすべての人との関わりを豊かにするヒントに溢れていました。
混ざり合うことで生まれる豊かさ
憧れが心のハードルを飛び越える
「パラスポーツフェスティバル」と「サッカー教室」。アプローチは違えど、目指す場所は同じです。それは、誰もが「スポーツって楽しい!」と純粋に思える場所を作ること。
アシックス・パラスポーツ企画部の渡邉崇行さんは、パラアスリートと子どもたちの交流を見て、ある確信を持ったと言います。
「パラスポーツは、一スポーツとしてめちゃくちゃかっこいい。その『かっこよさ』に憧れてスポーツを始める。それは健常者のスポーツもパラも同じはずです。障がい者だからアピールするのではなく、アスリートとしての凄さを知ってもらう。そこにファンがつくことで、本当の意味でインクルーシブな社会に近づくのだと思います」

実際、「パラスポーツフェスティバル」に参加した子どもたちにとって、100m走のトップランナーも、義足のランナーも、ブラインドサッカーの選手も、等しく「かっこいい、憧れのヒーロー」でした。
365日、誰もが主役になれる場所へ
アシックス里山スタジアムは、サッカーの試合を見るためだけの場所ではありません。365日、誰でもふらっと来られて、思い思いの形で関わり、つながり、笑い合える。私たちは、そんな風景をこの街の「当たり前」にしたいと考えています。
大切なのは、ただ目の前の人が「何を楽しもうとしているか」に想像力を働かせること。もし同じ楽しみを共有できるなら、ただ一緒に汗を流すこと。同じゴールに胸を熱くすれば、いつの間にか心の境界線は溶けていくはずです。
義足体験に歓声を上げたおじいちゃん。 スペチャレで初めて「できた!」という顔を見せた男の子。パラアスリートの凄さに純粋な憧れを抱いた子どもたち。彼らが肌で感じた「すごい!」「楽しい!」「かっこいい!」という感動が、やがて、今治に新しい関係性の風景を生み出していくことを願っています。
FC今治コミュニティ 編集部
小林友紀(合同会社企画百貨)