
FC今治のホームスタジアム・アシックス里山スタジアムに、増席工事によって現れた真っ白な「仮囲い」。普通なら、ただの“工事中の壁”として通り過ぎられてしまう場所かもしれません。けれどFC今治は、その壁を「地域とつながる場所」に変えようと考えました。
始動したのは、「タッチウェーブフラッグ」プロジェクト。
本来は廃棄される予定だった“のぼり”をアップサイクルし、地域の人たちと一緒に巨大な応援フラッグをつくる取り組みです。
そこに描かれるのは、誰かひとりの作品ではありません。
子どもたちの手。
高齢者施設で暮らす方々の手。
障がいのある方の手。
商店街を歩く人の手。
サポーターの手。
そして、まだスタジアムに来たことのない人の手。
一つひとつの「手形」が重なり合い、大きな“ウェーブ”になっていく――。
アート制作を入り口に、“地域との関わりそのもの”を形にしていく挑戦です。
「工事中」を、地域との“接点”に変える

今回のプロジェクト実行にあたってタッグを組んだのは、愛媛県と東京藝術大学による連携プロジェクト「art venture ehime」。プロジェクトに関わるアートコミュニケータ「ひめラー」たちは、アートを通じて人と人、人と地域をつなぐ実践を続けているメンバーたちです。
FC今治側からの「このせっかくの白い壁をキャンバスに見立てて、工事自体を楽しめるきっかけ、人が繋がるチャンスにできないか」 という投げかけから、ひとつのアイデアが浮かび上がりました。それが“応援フラッグ”でした。
「仮囲いがなくなったあとも、残り続けるものにしたかったんです」
そう語るのは、「art venture ehime」を運営する株式会社NINO アートディレクター、東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミニケーション領域 協力研究員、art venture ehime プロジェクトリーダーの二宮太一さん。
「工事中の今だからこそできること」を模索していったといいます。
その中で何度も出てきたキーワードが、「タッチポイント」でした。
“スタジアムに来ない人”とも、つながりたかった

「普段、トップチームの応援やスタジアムに関わっている人だけじゃなくて、“今治に住んでいるいろんな人たち”にとってのきっかけになるプロジェクトにしたかったんです」
そう語る二宮さん。
実際に今回のプロジェクトでは、商店街やホームゲーム会場だけでなく、高齢者施設や障がい者施設、幼稚園などにも足を運び、ワークショップを実施。
お年寄りから子どもまで、約520人の市民が参加し、巨大フラッグ9枚を制作しました。
“スタジアムに来る人”だけではなく、“まだ来たことがない人”とも接点をつくっていく。それこそが、このプロジェクトの大きなテーマでした。
「FC今治やアシックス里山スタジアムを、“サッカーを見る場所”としてだけじゃなく、“地域の中にある場所”として知ってもらうきっかけにもなればと思ったんです」
二宮さんはそう続けます。
「小さな関わりでもいい。制作作業に関わってみることが、誰かにとってのスタジアムとの“最初の接点”になる。その積み重ねが、地域の中に大きなウェーブを生んでいくんじゃないかと思っています」
想いが波になる。“手形”に込められたデザインの秘密

「タッチポイントって言葉がたくさん出ていたので、じゃあストレートに“手”を使ったら面白いんじゃないかって」
そう振り返るのは、フラッグのデザインアイデアを提案した、ひめラーの山下さん。
廃棄される予定だったのぼりを“手形”の形に切り抜き、そこにそれぞれの想いやメッセージを書き込んでいく。その小さな手形を並べていくと、まるでスタジアムで起こる「ウェーブ」のように見えました。
「一つひとつは小さいけれど、集まることで大きな波になる。その感じが、すごくいいなと思ったんです」
そこには、クラブへの応援だけではなく、「地域の関わりが波のように広がっていくように」という願いも込められていました。
サッカーが好きじゃなくても、関わっていい。「新しい自分」に出会う場所

ワークショップに参加した今治在住のひめラー・村上さんも、スタジアムの存在は知りながらも、これまでサッカーの応援に足を運んだことはなかった一人でした。
「プロジェクトに関わってみようと思えた最初のきっかけは、FC今治が好きだから、というより、“今治のために何かしたい”っていう気持ちでした」
そんな村上さんですが、これまで地域活動とは距離があったといいます。
「『人のため』っていうと、自分には少しハードルが高くて。でも、『アート』という切り口があったから、今までだったら行かなかった場所にも自然に飛び込めたんだと思います。昔の自分なら、こういうワークショップにもきっと行ってなかった(笑)」
最初は「自分には関係ない場所」だと思っていたスタジアム。けれど、思い切って一歩を踏み出したことで、見える景色が少しずつ変わっていったと言います。
「昔は『自分には無理かな』って最初から線を引いてしまうことが多かったんです。でも、飛び込んでみたことで、『あ、私こんなこともできるんだ』って、知らなかった自分に出会えた気がします」
小さな関わりが、いつか“地域のうねり”になる

「タッチウェーブフラッグ」という名前には、“触れる(タッチ)”ことで生まれる関係性と、“波(ウェーブ)”のように広がっていくコミュニティへの願いが込められています。
「今治のために何かしたい」という想い。
「ちょっと面白そう」という好奇心。
「誰かに誘われたから行ってみよう」という気軽な気持ち。
スポーツはもちろん、アート、ファッション、音楽、グルメ。
きっかけは何だっていい。
それぞれの理由で、誰かがスタジアムへやってくる。
誰かが、「またこの場所に来てみよう」と思う。
そんな小さな“接点”が、少しずつ地域に広がっていく。そして気づけば、スタジアムは「試合を見る場所」だけではなく、“人と人が関わる場所”になっていく。
FC今治が掲げる「365日のにぎわい」というビジョンは、こうした日常の関わりの中から、少しずつ形になっていくのかもしれません。
完成した巨大フラッグは今、工事中の白い壁を鮮やかな青に彩っています。スタジアムにお越しの際は、ぜひ足をとめて、その波を感じてみてください。
FC今治コミュニティ 編集部
小林友紀(合同会社企画百貨)
