オープンから半年弱で、来館者数は3万人を突破。今治市内だけでなく、県外からも多くの人が訪れる場所になった「しまなみ木のおもちゃ美術館」。けれど、スタッフが日々見ているのは、単なる来館者数の数字ではありません。
おじいちゃんが孫にけん玉を教える姿。
木のおもちゃを夢中になって口にする赤ちゃん。
車いすの子どもが、初めて木のたまごプールに入ってみる瞬間。
「あの子、歩くのが上手になったね」と、まるで親戚のように成長を喜ぶスタッフ。
そこには「おもちゃで遊ぶ場所」を超えて、人と人との関係が少しずつ生まれていく風景があります。
今回は、しまなみ木のおもちゃ美術館で働く3人のスタッフに、日々の館内で起きていること、そしてこれからこの場所で生まれてほしい景色について話を聞きました。

今回お話をうかがったスタッフ

青野初音さん
しまなみ木のおもちゃ美術館スタッフ。子どもや親御さんはもちろん、「おもちゃ学芸員」との温かなコミュニケーションを大切に現場を支える。

栁原未紗さん
しまなみ木のおもちゃ美術館 館長。全体の運営や空間づくりを統括。誰もが心地よく過ごせる場所を目指し、温かいまなざしで館内を見守る。

矢野翔大さん
「しまなみアースランド」での勤務を経て、しまなみ木のおもちゃ美術館スタッフへ。FC今治の他事業や地域とのつながり、これからの『木育』の広がりを見据える。
おもちゃ遊びを通して広がる今治の魅力
――オープンから3万人を超える方が来館されています。スタッフのみなさんは、この数字をどう感じていますか?
柳原:あっという間だったよね。正直、オープン当初はどのくらい人が来るのか全く予想がついていなくて。でも大勢の人たちに足を運んでもらい、たくさんの素敵な出会いが生まれていることが本当に嬉しいです。
同時に「こんなに市外や県外から来てくれるんだ!」という驚きも大きいですね。オープン当初から、来館者の割合は市内2割に対して市外が8割くらい。もっと近隣の方が中心になるイメージだったので、本当に予想外でした。

矢野:オープン直後は全国の「おもちゃ美術館」ファンの方も多かったですし、観光のプランに組み込んでくださっている方も多くて。「日中はここで遊んで、夜は今治焼豚玉子飯を食べに行きます」とか「このあとタオル美術館に行きます」という声を聞くと、今治を楽しむ旅の一部になっているんだな、と感じます。
青野:館内で今治のことを知ってもらえるのも面白いですよね。今治焼豚玉子飯を模したおもちゃを見て、「これ何ですか?」と聞かれて説明すると、「じゃあ食べに行ってみます」と言ってくださったり。
遊びを通して今治の産業や文化を知っていただけるのも、この場所ならではの面白さだなと思います。みかん狩り、造船所のドックなど、今治らしさを再現したエリアはどこも大人気です。

矢野:お父さんやおじいちゃんが、子ども以上に目をキラキラさせながら造船ごっこに夢中になっている光景もよく見かけます(笑)。大人の方がずっと真剣に遊んでくださっているのを見ると、思わず笑顔になっちゃいますね。
「木だから、いい」。便利じゃないから生まれる遊び
ここ、しまなみ木のおもちゃ美術館に並ぶのは、たくさんの木のおもちゃ。スタッフが感じている木の魅力は、単に「木製だから温かみがある」ということだけではないようです。
――木のおもちゃならではの、子どもたちの反応はいかがですか?
青野:木のたまごプールで寝転がっている子どもたちを見ていると、本当に全身で木を感じてくれているなと思いますね。
柳原:あと、やっぱり赤ちゃんは口に入れて確かめるんです。初めて来られたお母さんだと「すみません、舐めちゃって……」と申し訳なさそうに止めようとされることもあって。でも、「赤ちゃん木育ひろば」には口に入れることも想定したおもちゃを置いていますし、消毒態勢も整えています。「大丈夫ですよ、安心して口でもいっぱい触感を楽しんでくださいね」とお伝えすると、驚きつつも安心してくださいます。

矢野:プラスチックのおもちゃと違って、「便利すぎないからこそ」の良さを実感される大人の方も多いですよね。一つのおもちゃでも何通りもの楽しみ方が生まれてくるし、自由な発想や工夫を引き出してくれる面白さがあります。
柳原:家でこれだけの木のおもちゃを揃えるのって、なかなか難しいじゃないですか。だから「ここなら思いっきり遊ばせてあげられるのが嬉しい」という親御さんの声を聞くと、こちらもうれしくなります。木ならではの丸みのある音や触り心地の柔らかさ、見た目の温かみがあって。「ここにいるだけで親の自分まで癒やされる」という声はよくいただきます。
――その木の温もりもあってか、館内全体がとてもおおらかな雰囲気に包まれていますよね。親御さんや子どもたちとの関わりで意識していることはありますか?
柳原:もちろん、安全のために「走らない」とか「順番を守る」といった最低限のルールはあります。でも、なるべく「ダメ、あれも禁止」という空間にはしたくなくて。「親子で一緒に遊んでもらうこと」を大切にしているからこそ、子どもにとっても大人にとっても居心地がよく、肩の力を抜いて楽しんでもらえるような関わり方を心がけています。
矢野:公園と同じ感覚で、お子さんだけが遊んで親御さんがベンチでスマホを見始めてしまう場面もあるのですが、「スマホはやめてください」と注意するのではなくポジティブに関わるようにしています。「素敵な表情ですね!写真撮ってあげてください」と声をかけたり、「このおもちゃ、実はこんな遊び方もできるんですよ」と一緒に遊ぶ楽しさを伝えたり。

青野:子どもの生き生きとした表情や発想力豊かな遊び方をしているからこそ、それを目の前で見て、触れ合ってほしいです。お子さんだけでなく、お父さんやお母さんにとっても「来てよかった」と思える時間にしてほしいですね。
人の力が7割。人と人とをつなぐ「おもちゃ学芸員」の存在
「しまなみ木のおもちゃ美術館」の特徴の一つが、一緒に遊んだり、親子のコミュニケーションをサポートしてくれるボランティア「おもちゃ学芸員」の皆さんの存在です。20歳前後から80代まで幅広い年代にわたり、保育の仕事をめざす人や、現役で働く人、定年退職後の人など、実にさまざまです。
──「おもちゃ学芸員」の方々は、この場所でどのような役割を果たされていると感じますか?
柳原:この「しまなみ木のおもちゃ美術館」の魅力は、おもちゃが2〜3割だとしたら、人の力が7割。やっぱりボランティアでお手伝いしてくださる「おもちゃ学芸員」さんがいてくれるからこそ、この温かい雰囲気が出来上がっているなと感じます。学芸員さんの細やかな配慮があるからこそ、安全で満足度の高い空間が作れていますし、おもちゃも大切に使っていただけるんですよね。
矢野:本当にそうですね。「実は高校の同級生で、何十年ぶりに再会した!」というドラマがあったり、おもちゃ学芸員さん同士でも繋がりや結びつきが生まれてきていると感じています。

柳原:シフトで人が足りない時は、スタッフからおもちゃ学芸員さんに「SOSメール」を送るんです。最初は「あまりお願いしすぎるのも申し訳ないな」と控えようとした時期もあったのですが、みなさんから「気兼ねなくSOSメール送ってよ!」と言っていただいて(笑)。「メールが届くから『助けに行こうかな』ってやる気になれるんだから」って。今では心強いメンバーの方々が駆けつけてくれて、一緒にこの場所を作ってくださっています。
青野:学芸員さんそれぞれのバックグラウンドや経験が生きているのも、この場所の大きな強みですよね。介護職の方や防災士の方、ものづくりが得意な方など、多様な特技を持った方がいらっしゃいます。
以前、車椅子に乗った小学生くらいの女の子が「たまごプール」をじーっと見つめていて。きっと今まで「車椅子だから無理かな」と諦めることが多くて、言い出せなかったんだと思うんです。その時、介護職のおもちゃ学芸員さんが「人が少ない時間だから、私たちが一緒にお運びしますよ。入ってみますか?」と優しく声をかけて。車椅子から降りてプールに入れた時、本当に嬉しそうな表情を見せてくれました。

柳原:「こんなお客さまが来られているなら、スタッフだけじゃなく私たち学芸員にも共有してほしい。自分の経験を活かしてサポートできることがあるから」とおもちゃ学芸員さん側から言ってくださることもあって。本当に頼もしい存在です。
世代も境目も超えて。遊びから、もっとその先へ。
――おもちゃ美術館には、世代や年齢を超えて、一緒に遊びが生まれる場面も多いですよね。
矢野:伝承遊びのコーナーは、まさに多世代交流の象徴ですね。おばあちゃんがかっこよくけん玉をやって見せると、子どもたちが「負けじ!」と必死で真似をしたり。普段はおとなしいおじいちゃんが、ここに来ると目を輝かせてコマを回していたり、ご家族にとってもお互いの新しい一面が見える場所になっています。
柳原:この前も、よちよち歩きの赤ちゃんがおもちゃ学芸員さんと向かい合って、負けじとけん玉を揺らしてダンスバトルみたいになっていて(笑)。愛おしすぎて思わず写真を撮っちゃいました。

青野:あと、平日パスを買ってここで立つ・歩く練習をしてくれているお子さんもいるんです。人混みが少し苦手な子なのですが、閉館前の落ち着いた時間に来て、裸足で木の感触を楽しみながら壁づたいに歩く練習をしていて。「ここで身体を動かすと心地いいみたいで、家でのルーティンが変わった」とお母さんも喜んでくださって。日々成長していく姿を親戚のように一緒に見守れるのが、うれしいですね。
柳原:まるで“民間の子育て支援センター”のような存在になれているのが本当に嬉しいです。
――最後に、これから挑戦していきたいことや未来への想いを教えてください。
矢野:やりたいことは山ほどあります!ワークショップスペースの本格始動もそうですし、FC今治が手掛ける他の事業──例えば「しまなみアースランド」などとの連携も深めていきたいです。「この木のおもちゃは、森の1本の木からできているんだよ」「森を守るためには定期的に木を切ることも大切なんだよ」といったストーリーを、子どもたちが自然に感じ取れるような循環を作っていきたいですね。
柳原:私は、医療的ケアが必要なお子さんたちなど、なかなかここに来られない子どもたちのところへ「出張キャラバン」としておもちゃを持って行きたいなと思っています。どんな子も木に触れて笑顔になれる時間を作っていきたいです。
青野:障がいがある子も、小さなお子さんも、誰もが安心して過ごせる時間や空間をもっと広げていきたいですね。通ってくれるお子さんがどんどん歩けるようになっていくみたいに、ここで生まれる「小さなできた!」を、ご家族やおもちゃ学芸員さんみんなで一緒に喜び合える場所であり続けたいです。

FC今治コミュニティ 編集部
小林友紀(合同会社企画百貨)