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2025.05.20

ライフラインは、お隣さん? 予測不能な未来を生き延びる「共助」への挑戦(前編)

ライフラインは、お隣さん? 予測不能な未来を生き延びる「共助」への挑戦(前編)

人口減少と高齢化の波が更に押し寄せる10年後の日本。気候変動や経済格差、AIの進化など、かつてないほどの社会の変化が、目を背けられない現実として私たちの目の前に迫っています。

そんな時、本当に頼りになるのは、もしかしたらお金や情報よりも、顔の見える隣人たちの温かい手かもしれません。もしもの時に助け合い、共に生き延びる。そんな強いつながりを持った「共助のコミュニティ」こそが、これからの時代を生き抜くための希望になるのではないでしょうか。

4月の穏やかな昼下がり、FC今治のクラブハウスに、未来への熱い想いを抱く10社のメンバーたちが集い、真剣な議論を交わしました。コンソーシアム立ち上げから半年がたったコミュニティづくりの現在地を、お届けします。

「生き延びるため」の共助

「地球が救われるかは分からない。けれど『共助のコミュニティ』という『希望』を、次の世代のためにどうしても残したいんです。」

そう語る岡田武史会長の言葉からは、大きな変化を迎えている社会への危機感と、未来を諦めたくないという強い願いが、ひしひしと伝わってきます。私たちFC今治が目指すのは、誰もが自由に出入りして交流でき、そして困ったときには衣食住を保証しあえる「共助のコミュニティ」づくり。その実現に並々ならぬ情熱を燃やし続けているのが、他でもない、岡田会長です。

長年にわたり環境問題に真摯に取り組んできた岡田会長。そうした環境活動も、サッカークラブも、教育活動も、すべての根底には「次世代のため」という一貫した思いがあります。

「全ての生物は、次世代へ命を繋ぐために生きているはずなのに、人間は今、自分のことばかり考えている。『今さえ良ければいい』のではなく、次世代に何を残せるのか。それを真剣に考えなければいけない」(岡田さん)

かつては地域社会をしっかりと支え合っていた、強固な「むら」のつながり。しかし、時代の流れとともに、その形は薄れています。核家族化が進み、これまで頼りにしてきた自治体の機能も、残念ながら低下していくことが予想される今、私たち、そして未来の子どもたちはどのようにして揺らぎ続ける社会の中で、生き延びていけば良いのでしょうか。

これまで数多くの限界集落で、コミュニティづくりを実践してきた林篤志さんは、その問いに対して、力強く「共助」の必要性を訴えます。

「自治体の力が弱まる真ん中に、ぽっかりと穴が開いてしまう。だからこそ、『共助』が必要なんです」(林さん)

林さんたちが地域で実践するのは、「Local Coop」という、これまでの自治の形にとらわれない、全く新しい試みです。既存の自治体と連携しながら、地域に住む人々自身が主役となって、本当に必要なインフラや未来への投資を、自分たちで決めていく。そこには、誰かに頼るのではなく、「自分たちの未来は、自分たちで切り拓く」という、力強い決意が感じられます。

岡田会長と林さん、2人の話に共通して強く感じられるのは、「共助」の根底にある「生き延びるため」という切実な目的意識です。厳しさを増す社会情勢の中で、一人では立ち向かうことが難しい未来を、仲間と共に力を合わせて切り開いていく。そのためには、「共助のコミュニティ」こそが、未来にとっての希望になりえるのだと、2人は熱を込めて語ります。

「なんとなく地域が賑やかになれば良いとか、ぼんやりとした地方創生、地域活性化で終わらせたくない。それが本当に『生き延びることにつながっているのか』という意識は、持ち続けたいし、持ち続けないといけないと思っています」(林さん)

「危機感」を巡る議論

林さんの問題提起を受けて、議論の中心に据えられたのは「危機感」という言葉でした。日本で暮らす私たちは今、物質的には余りあるほどの豊かさを享受しているといえます。そんな中で、2人が抱くような切迫した「危機感」を、一体どれだけの人が共有できるのか。参加者からも、率直な意見が次々と飛び交いました。

「僕たちが考える『共助のコミュニティ』は、ただ困った時に助け合うだけでなく、『衣食住を分かち合える、人と人との強い繋がり』です。でも、グローバル化が進み、食べ物や服は安く手に入るようになり、一見すると困っている人は少ないのかもしれない。だとしたら、今、この今治という地域に本当に足りないものは何なのか? そこから議論を始めてもいいかもしれません」(矢野さん)

議論の出発点となった矢野さんの問いかけ。それに対し、林さんは、市民を巻き込む上では地域のニーズに応えることの重要性を認めながらも、現状に対する「まだ大丈夫」という認識の危うさを指摘します。

「例えば、私たちの食を支える農業の担い手は、驚くほどのスピードで減っています。今の世代が引退したら、食料生産はどうなるのでしょう? 『生き延びる』という視点で見れば、今が本当に『足りている』のかどうか、もっとシビアに見る必要があるのかもしれません」(林さん)

「生き延びる」という、力強い言葉。それは、安易に未来を楽観視してはいけない、というメッセージでもあります。「危機感」というキーワードは、参加者それぞれの心に波紋を広げていきます。

「危機感を持っている人もいれば、そうでない人もいて、正直、その温度差は大きいと感じています。」(為川さん)

「多くの人は実際に困った状況に陥って初めて、危機感を抱くのではないでしょうか。」(越智さん)

危機感という強い思いから生まれた「コミュニティ」の構想でありながらも、現時点では市民や世の中全体の共通認識として、危機感を軸に地域を巻き込んでいくのは難しいのではないか、と林さん自身も率直な思いを語ります。

「正直、僕らが地域の繋がりを何とかして守ろうと一生懸命取り組んでいても、必ずしも地域側が同じような危機感を持っているわけではないんです」

行政サービスを民間であるLocal Coopに委ねることに対して、地元の方からは「別に困っていない」という声も聞かれるといいます。しかし、それは行政の多大な補助があるからこそ。ひとたび頼みの綱が切られてしまえば、途端に立ち行かなくなる。しかしそのことに、市民一人ひとりが気づけるかといわれると、やはり不自由を感じていない現状では、難しいのかもしれません。

「地域住民の 『困り感』に寄り添いすぎると、かえって物事は前に進まない。ただ、10年後、取り返しのつかないほど厳しい状況になっているのではという感覚は、日本中の多くの地域で共通認識になりつつあると感じています。」(林さん)

待ったなしの未来に対する、強い危機感を共有する林さん。これまでのような、地域住民の内発的な動きを促すまちづくりのプロセスを尊重しながらも、スピード感を持った変革のためには、地域の内外を問わず、現時点ですでに強い危機感を持って未来を見据える人たちの主体的な行動こそが鍵だと、林さんは力強く訴えます。

「危機感を持てる人たちから、立ち上がるしかない」

その言葉には、これまでのやり方を変えなければ、本当に手遅れになるかもしれないという、切迫した思いが感じられました。

「今僕たちが目指すべきは、ここ今治だけではなくて、日本あるいは地球規模での10年後、20年後を見据えて、今のうちからこういうモデルを作っておかなければいけない、ということを先回りして実現していくことだと思うんです」(林さん)

取材 / 小林友紀(企画百貨)