FC今治と高校生、失敗だらけの挑戦から生まれた地域を変える「つながり」

2024年4月に開校したFC今治高校里山校(FCI)。予測不能な時代をたくましく生き抜く次世代リーダーの育成を掲げ、そのユニークな教育方針が注目を集めています。なかでも、企業と一緒に地域プロジェクトに取り組む「里山未来創造探究ゼミ」は、社会で求められる力を育てる教育モデルとして、大きな期待が寄せられています。
地域に根差して活動するFC今治は、今年度、2つのゼミでFCIと連携し、生徒と一緒に活動してきました。このゼミで特徴的なのは、FC今治が単に「学びの場」を提供するだけではなく、生徒たちの成長に本気で向き合ったという点です。しかし、その道のりはたやすいものではありませんでした。
今回の記事では、実際に授業を担当した今治.夢スポーツの阿部珠恵さん(地域コラボ=“ちいコラ”ゼミ担当)にお話を聞いてみました。
FC今治が描く「共に助け合うコミュニティ」の未来を担う若者たちとの協働は、どのようなエラーと学びを生み出したのでしょうか?
エラーが続いた「お悩みヒアリング」
里山サロンゼミと同様に、「高校生の自由な発想に期待したい」という思いから、ゴール設定も生徒に任せる形でスタートを切ったという「ちいコラゼミ」。
企業側の課題として生徒に伝えたのは、サッカーという枠組みにとらわれないコミュニティを創っていくために、「サッカーに興味がなかったり、FC今治を知らなかったりする人たちが、何に困っていて、クラブとしてどんなことができれば役に立てるのかを調べてほしい」ということでした。
まず生徒たちが思いついたのは、「じゃあ、困っていそうな人がいるところに、直接聞きに行ってみよう」というアイディア。

みんなの意見をまとめて引っ張るような熱量の高い生徒も多く、アクションが決まるまでのスピードは速かったという、ちいコラチーム。ただ、そこからはエラーが続きました。
まず市役所にヒアリングに出かけた生徒たち。しかし市役所に訪れる市民の方は、公的な手続きやサポートを求めている人が多く、想定していたような「身近なお悩み」は聞けませんでした。
方向転換を強いられたチームが次に思いついたのは、市民が集まる「せとうちみなとマルシェ」でアンケートを取ってみたらどうかという案でした。
しかし初めに見せてもらったアンケートの案は、『今、悩み事はありますか』というかなりザックリとしたもので、「これをもらっても答えられないだろうな」と思った阿部さん。
想定される「悩み回答」から逆算してアンケート項目を作るのが一般的な方法論ですが、生徒たちの視点では、年代も職業も性別も多様な市民が、一体どんなことに悩んでいるのか、検討がつくはずもありませんでした。
高校生の行動力×企業の視点が生み出すもの
生徒たちと同じ方向を向いて、議論や結論を見守りながらも、時には「一般的にやるときはこういう難しさもあると思うよ」「こういうところは気にしなくてもいい?」とスタッフらとともに声をかけて進めてきたという阿部さん。

生徒たちはそうした意見も取り入れながら、アンケート内容をブラッシュアップ。まずは「かなり満足」から「かなり不満」まで、地域での生活に6段階で評価をつけてもらうことで、回答しやすい仕様に変更することで、不満の要因や「高校生にしてほしいこと」を募る流れにしました。
実際にマルシェ会場で、83人もの方にアンケート回答に協力してもらった生徒たち。しかしそのなかで明確に「高校生にこんなことをしてほしい」という回答は得られなかったといいます。
思ったようなフィードバックが得られなかったことに、落ち込んだ様子の生徒たちでしたが、自分たちでやってみたことで納得して、文字で意図を伝えることの難しさや相手から回答を引き出すための工夫点など、学んだこともあったよう。
「エラーの度に立ち止まっては、何時間でも議論して、『何でうまくいかなかったのか』『次にどんなアクションができるか』ってとことん話し合っている様子は、すごいなと思いましたね」(阿部さん)

アンケート結果を踏まえて、最終的には『子育て世代のあったらいいな』に応える「子どもの職業体験」企画と、もっとフラットに地域の人たちとつながるための「お茶会」企画をアイディアとして提案した生徒たち。
それに対して阿部さんは「企業としてはここを大切にしたい」「今の議論だったら、FC今治の周りにいる人にしか届いてないよね」と、企業の視点でフィードバック。生徒たちもそうした意見に食らいついて考え、両者でアイディアをもっと価値あるものにしようとしているといいます。

コミュニティの新しい側面をひらく可能性
半年間を終えて「『企業の課題』という初めの入り口から、ゼミの回を重ねるごとに『自分には何ができるかな』とどんどん自分事になっていく様子が見て取れた」と阿部さん。自分たちで一貫して一つのプロジェクトを実践するプロセスを通して、生徒たちはよりオーナーシップを持って企画に関わっていきました。
先日、お茶会企画を実施した生徒たちは、20人程の市民や大人と一対一で対話したといいます。

「私達に話すのと、高校生に話すのとは、感覚も違うと思うんです。『FC今治』ではなく、『FCI』『高校生』というアンテナに引っかかった方が、FC今治のことをどんな風に思っているのか。ファンやサポーターの方々との交流とは異なる、新鮮な声が聴けるのではないかと、期待しています」
高校生との活動から、阿部さんは確かな手応えと未来への希望を感じているようです。
「学生たちが意欲的に議論する中で生まれる発想は、私たちでは思いつかないような、新鮮な視点やアイデアに溢れています。こうした彼ら彼女らならではの視点を、企業として取り入れることができれば、双方にとって有意義な取り組みになると、確信しています」
取材 / 小林友紀(企画百貨)