秋の空気がようやく涼しさを運び、前日の雨に濡れた芝生を穏やかに揺らしていました。

色とりどりのテントが広がり、アパレルグッズやクラフト作品が並ぶマーケット。あちらこちらに子どもたちやワンちゃんの姿。どこからか聴こえる穏やかな音楽。

スタジアムがいつもの熱狂を脱ぎ捨て、TINY GARDEN FESTIVALの会場として姿を変えていたこの日。昨年11月に発足した「FC今治コミュニティ・コンソーシアム」が、結成1周年を迎え、会議を開催しました。

共有されたのは、FC今治が掲げる「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」という理念が、地域の中で具体的な実践として、確かなつながりを生み始めているという手応えです。

会長の岡田武史が見据えるのは「資本主義の行き詰まりを打ち破る、新しい社会モデル」を今治から創り出すこと。サッカーの枠を超え、人と地域がゆるやかに支え合う“共助の実験場”としての可能性が、静かに広がりを見せています。

それぞれの現場で生まれた挑戦

365日、体を動かすことで人がつながるまちへ
報告者:ASICS 山本義広さん

地域の皆さんとともに「体を動かすこと」を軸にしたコミュニティづくりを推進してきた「アシさとクラブ」。活動をスタートされてから約1年半、スタジアムや公園では子どもから大人まで、多世代が参加する姿が見られます。

「運動をきっかけに、人と人がつながる場をつくりたい」

ASICSの理念「Sound Mind, Sound Body」を土台に、誰もが一生を通じて運動やスポーツに親しめる環境を今治で育ててきました。現在、クラブの会員数は1,300名を超え、SNSを通じて活動の輪も広がっています。

さらに、デロイトトーマツ コンサルティングと連携したWeb3会員制度のトライアルも進行中で、デジタルとリアルの両面からコミュニティ環境が整えられつつあります。

「365日、体を動かすことをきっかけに、人がつながる賑わいを、今治全体でつくっていきたい」

地域のあらゆる場所が、運動と交流の場になる。アシさとクラブは、スポーツを通じてまちをひとつにする新しい試みに挑戦しています。

地域との体験型イベントでつながりを広げる
(アーバンリサーチ 竹村圭祐さん

3回目となる 「TINY GARDEN FESTIVAL」 が開催されたこの日。あいにく雨の降る時間帯もありましたが、会場となった 「里山ジャルダン」改め「TINY GARDEN by URBAN RESEARCH」 では、新たな遊具がお披露目され、餅まきは押し合いへし合いの大盛況!周辺では「里山の小さな縁日」も同時開催し、小さな子どもも大人もにぎわいがあふれる、あたたかな交流の場となりました。

年間を通じて、TINY GARDEN FESTIVALのスピンオフとして小規模イベントを継続的に実施してきたアーバンリサーチ。

「地域の皆さんと一緒に活動の定義や形を整理しながら、活性化を進めていきたい」

今後は里山サロンのグッズ売り場での拡大展開など、今後も今治に根ざした活動を広げていく予定です。

地域のハブとなる「しまなみ木のおもちゃ美術館」
(報告者:イオンモール今治新都市 為川恭明さん

来年3月の開館に向けて、「しまなみ木のおもちゃ美術館」の準備が着々と進んでいます。

この美術館の大きな特徴は、市民が運営に参加できる仕組みを備えていること。今年度はすでに2回の「おもちゃ学芸員養成講座」を開催し、今後、残り2回を予定。来館者の「おもちゃあそび」の広げ方、イベント運営の方法など、実際の美術館づくりに直結する学びを重ねながら、学芸員同士が繋がりあい、開館後の運営基盤を少しずつ築いています。

「多くの地域の方々に支えられながら、“学び”と“参加”の両輪で運営の土台を整えていけるのが、この取り組みの大きな魅力です」

同時に「アシさとクラブ」との協働など、コンソーシアムでのつながりを通じて、これまで接点のなかった企業や団体との連携も動き出しています。

「今後もこうした連携を深めながら、イオンモールが地域のハブとして機能し、今治の魅力や可能性をさらに広げていきたい」

地域と企業、学校や団体が手を取り合い、まち全体で“学びと遊びの循環”を生み出す。 それこそが、「しまなみ木のおもちゃ美術館」が描く、これからの今治の姿です。

テクノロジーと社会的価値の創造
(報告者:デロイト トーマツ コンサルティング 井出潔さん

この日、TINY GARDEN FESTIVALで空飛ぶクルマのVR体験ブースを出展したデロイト トーマツ コンサルティング。子どもたちや来場者が最新テクノロジーに触れ、目を輝かせる姿が印象的でした。

「人の笑顔や感動を生み出す瞬間に立ち会えることが、私たちにとって何よりの励みです」

創業者の等松 農夫蔵氏は、戦後の混乱の中、資本主義が十分に機能しない社会を目の当たりにし、経理・会計を通じて社会を支える使命を抱きました。その精神は今も受け継がれ、FC今治コミュニティ・コンソーシアムでは、法人化に向けた検討の支援やデジタル基盤の整備などをサポート。社会課題の解決や「新しい資本主義」のあり方を共に模索しています。

「地域やコミュニティの活動を一本ずつ丁寧に育てること——これも私たちの理念と通じています」

心の豊かさを、アートで感じてつながる
(報告者:NINO 二宮敏さん

今年初開催された「art venture ehime fes」。スタジアム周辺が一つの大きなアートの舞台となり、多彩な表現と人の輪が交わりました。

「自発的に動く有機的なコミュニティの力を改めて実感しました」

プロジェクトの主体となる案内役は、市民発のアートコミュニケーター「ひめラー」。すでに2期生の活動も始まっており、来年度も地域の中で、アートを通じたコミュニケーションを学び、実践していきます。

さらにボランティアチーム 「ベンチャーガイド」 には、わずか1週間で70名が応募。単なる運営サポートにとどまらず、アート作品やパフォーマンスを自分の言葉で発信し、熱量のあるコミュニティを自ら育てています。

「見る側」から「つくる側」へ。その主体的な関わりこそが、愛媛の文化の新しい地層を形づくっています。

トリエンナーレ形式で、2028年に第2回の開催が予定されている「art venture ehime fes」。同年には「国民文化祭」の愛媛開催も正式に決定しました。アートと市民の力が重なり合い、新たな文化のうねりが、いまここから動き出しています。

地域共創の“第二の自治体”を模索
(報告者:paramita 大澤哲也さん

「人口減少」「気候変動」「AI」といったメガトレンドの中で、自助や公助だけに頼らない“共助”のあり方を探求しているparamita。「ローカルコープ」という“第二の自治体”の仕組みを全国で推進し、企業や個人が支え合い、新しい価値を共に生み出すモデルを模索しています。

「今回の報告を通じて、里山スタジアムやそこを起点に広がる活動には、『フィールドを共有しながら共に創る力』が満ちていることを実感しました」

「企業や地域のポジティブな力を束ね、どこに向かって共に歩むかを共創できるプロジェクトを形にしていきたい」

来年度以降はコンソーシアム参画企業ともさらに深い連携を進め、地域と共に価値を育てる取り組みを拡げていく方針です。

地域全体が「学びのフィールド」
(報告者:FC今治高校里山校 校長 辻正太さん

全国から生徒が集まるFCI。地方都市・今治だからこそ、地域や企業との協働は学びの重要な柱となっています。なかでも 「企業ゼミ」 では、生徒たちが地域で出会う“頼れる大人”とともに学び合い、その学びをきっかけに生徒自身がプロジェクトを立ち上げ、商店街での活動や起業に挑戦するケースも生まれています。

© art venture ehime fes 2025 / FC Imabari High School Satoyama Campus Music Class

最近では、「3年で卒業せずに地域に残り、活動を続けたい」「帰ってこれる場所をつくって、関わり続けたい」という声も上がるなど、今治という土地に根差した学びの価値を実感する動きも見られます。

「今治というまち全体が、子どもたちの『学びのフィールド』です」

FCIが目指すのは、生徒たちが学びを通して地域に根を張り、将来的にはそれぞれの地元や新たな地域でコミュニティをつくること。地域と学校が支え合い、生徒の成長を促すFCIの取り組みは、地方の教育モデルの可能性を広げています。

FC今治、共助の旗振り役として次のステージへ

この1年、FC今治は「サッカークラブ」という枠を越え、地域とともに動く“共助の実験場”として歩みを進めてきました。畑を耕し、交通をつなぎ、文化を育む、その一つひとつの取り組みが、今治に根を張る新しいスタジアムづくりの基盤になりつつあります。

会の最後、社長の矢野将文と会長の岡田武史が、これからのビジョンを語りました。

「各法人や団体の皆さまが挑戦を重ね、次のステップへ進んでいる姿に心強さを感じています。これまで積み上げてきた地域での取り組みが、クラブの成長とともに着実に形になった1年でした」

「ギラギラした情熱とスピード感を取り戻し、最前線で挑戦する姿勢を地域全体に示したい。それがコミュニティを引っ張る原動力になる」

「私たちが“コミュニティ”を掲げるのは、理念や価値観を突き詰めた結果です。物の豊かさより、心の豊かさを重んじ、地域から新しい社会モデルを示す。必要なのは『共助』と『自律分散』の仕組み。誰かに任せるのではなく、自分たちで支え合い、地域から動き出す民主主義の形です。その第一歩が、地域から始まる小さな“共助のコミュニティ”なのです」

「現実的にも、クラブがJ1で優勝を争うには莫大な資金が必要です。だからこそ、所謂スポンサー頼みだけではなく、共助の仕組みを基盤にした新しい経済モデルを築きたい。小さな会費や寄付でも、多くの人が共に関わることで持続可能な仕組みになる。そのプラットフォームを今、ここ今治から構築していこうとしています。」

「次の段階では、実際に会社を立ち上げ、資本金を投じ、健康・教育・地域経済などの取り組みをワクワクする形に育てながら、共助の輪を広げていきたい。そのモデルを、今治から世界へ――これが私の願いであり、FC今治が目指す次のステージです。」

FC今治は、サッカークラブとしての活動にとどまらず、地域の企業や団体と協力しながら、さまざまな挑戦を広げてきました。その取り組みは少しずつ、今治の街の風景や暮らしの中に変化を生み出しています。

私たちが手さぐるのは、まだ誰も見たことのないコミュニティのあり方です。小さな一歩でも、共に動き、共に創ることで、持続可能な社会を少しずつ形作っていくこと。それこそが、私たちFC今治が描く次のステージです。

取材 / 小林友紀(企画百貨)